小松電機産業株式会社

小松電機産業株式会社

全国の上下水道、農業用水、消融雪、水門をRubyで管理

水関連施設総合管理システム「やくも水神」

島根県松江市に本社を置く小松電機産業株式会社(以下、小松電機産業)は、シートシャッター「happygate門番」と、上下水道計測・制御・監視システム「やくも水神」を中核事業として全国に展開している企業である。「happygate門番」は196,000台の販売台数を誇り、国内シートシャッター市場で3割のシェアを占めている。また、「やくも水神」も全国496自治体16,000施設で採用されており、全国に広く普及している。そして2つの事業の収益金でドゥー&シンクタンク「人間自然科学研究所」を設立。「平和・環境・健康はひとつ」を旗印に恒久平和モデル創出に至る道筋を確立しようとしている。

「やくも水神」は、テレメータ(専用線)による遠方監視装置として1977年に島根県美都町(現:益田市美都町)に納入されたのを起源とする。1985年の日本電信電話公社の民営化を契機に、一般公衆回線を利用した監視装置を開発し、1988年に滋賀県びわ町(現:長浜市)に納入した。この一般公衆回線を利用した形が現在の「やくも水神」の原型である。

ただし、当時の「やくも水神」では、下水道処理施設のパソコンから送られたデータを、役所で中央監視・管理する必要があった。つまり役所側にホスト機を置く必要があるため、全国の自治体に販売し継続的に保守をしていくには、移動コストなど掛かりビジネス的に大きく展開できないという課題があった。また、1990年代後半になると、ポンプの価格競争も激しくなり、事業撤退も検討され始めていた。

全国展開に向けた新たなサービス開発

しかし、小松電機産業では事業撤退ではなく、制御・監視・管理を一体化した下水道施設管理システムを開発することにした。それは、NTTドコモのDoPa(※2022年9月現在はLTEを利用)と呼ばれるパケット通信を利用したものであり、制御盤から出される警報を自治体職員の携帯メールに通知したり、遠隔のPCから制御したりできるものであった。さらに、2000年から2003年までの期間、制御・監視・管理のためのソフトウェアは小松電機産業本社にあるサーバーからASP型で提供した。これにより、役所に中央監視用のホスト機を置く必要がなくなるとともに、管理システムの保守を小松電機産業側のサーバーで行えるようになり、全国展開に弾みをつけた。また、ポンプの価格が下落する中、付加価値の高いサービスを提供できることで、小松電機産業の水関連施設管理事業も新たな成長過程に入った。

オープンソースソフトウェアを活用したシステム刷新

全国展開の進んだ「やくも水神」であったが、2002年頃に技術的な課題に直面した。利用自治体も増えてきた中、原因不明のサーバーダウンが2週間に1回程度と頻発していた。そこで、小松社長とシステムチームは協議を重ね障害の原因を自社で把握できるようにしようと、オープンソースソフトウェアであるLinuxを採用することにした。Linuxベースでの新システム開発にあたり、同じ松江市に本社を置き、Linuxをはじめとしたオープンソースソフトウェア技術に強みを持つ株式会社ネットワーク応用通信研究所(以下、NaCl)の井上社長に小松社長よりお声がけし共同開発が始まった。「当時から、NaClにRuby言語の開発者がいることは知っていたが、Linux上でのソフトウェア開発ではC言語を採用しようかと考えていた。しかし、Ruby言語の開発者であるまつもとゆきひろさんが『Rubyでやろう』と言い、ソフトウェア設計をホワイトボードに書くなど積極的に提案してくれたので、Rubyでやってみようと思った。」と小松電機産業 経営企画室 主査 田辺勉氏は当時を振り返る。そして、NaClのソフトウェアエンジニアとともにエクストリーム・プログラミングと呼ばれる開発手法を採り入れ、Rubyで新しい「やくも水神」を開発することとなった。

外注に頼らない体制へ

NaClと共同で開発された新しい「やくも水神」は2003年にNTTドコモのデータセンターなど東西2拠点で提供を開始した。その後は、サーバーソフトウエアに関しては、NaClのみならず、自社で保守および機能追加を行なってきた。「お客様に説明し、アフターフォローする自社も「やくも水神」のヘビーユーザーであり、さらに制御の仕組みが分かる現場の元技術者がソフトウェア開発をしているので、現場ニーズをスムーズにソフトウェアに反映させることができる。」と田辺氏は語る。

2003年当時から現在に至るまで「やくも水神」の開発を担当している情報システム部 廣江深氏も現場の技術者上がりだ。「2003年当時は、ペアプログラミングで開発をしたのだが、NaClの担当者に頼ってばかりだった。しかし、シンプルな設計でつくられたため、Rubyの理解も進んだ。」と廣江氏は振り返る。Rubyの理解が進んだ今では、「プログラムの改変がしやすい。さらに要件を実現するまでの期間がとても速い。」と廣江氏はRubyを高く評価する。また、「他機器とのデータのやり取りを抽象化できるため、画面構成や新機能の開発に集中することができる。」とスピーディーなサービス提供にRubyが大きな効果をもたらしている。

住民の生活を陰で支えるRuby

2011年11月には、「やくも水神」の新バージョン「G水神」を提供開始した。Web側のソフトウェアだけでなく、スマートフォン、タブレット向けアプリのAPIもRubyで実装し、以前よりRubyで開発されてきたサーバー側とのデータ連携に「msgpack-rpc」を採用するなど、新しい「やくも水神」はRubyの活用度を増している。現在、「やくも水神」のカバーする領域は、上下水道処理施設のみならず、農業用水、消融雪施設や水門施設など水関連施設全般を網羅している。市町村合併により、各自治体は水関連施設を広域にわたって管理しなければならなくなってきたが、従来のASP型から柔軟で拡張性のあるクラウドサービス型へと進化してきた「やくも水神」によってによって、一元的に水関連施設を管理することができる。また、「やくも水神」は現場に出向く施設管理者向けにはスマートフォンやタブレット端末を活用した管理サービスも提供している。
2018年には、やくも水神をご採用いただいている福島県南会津町が「水イノベーション賞特別賞」「東北総合通信局長賞」受賞され、2019年には農林省国家プロジェクト「福井県九頭竜川農業用水事業」で「やくも水神」を採用、「水のクラウドの先駆け・松江で生れたRubyで構築」のタイトルで専門誌に掲載された。
更に、2020年にはNaClおよび奥出雲の株式会社ニッポーの協力のもと開発した「リアルタイム監視機能」が中国経済産業局長賞を受賞。続いて2022年には中国地域ニュービジネス優秀賞を受賞するなど、Rubyで開発された社会インフラシステムが人々の生活を支えていることが評価された。

各家庭において、蛇口をひねると水が流れ、流した汚水も逆流しない。これが当たり前になっているのは、「やくも水神」とそれを支えるRubyのおかげかもしれない。

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やくも水神イメージ

やくも水神1

やくも水神2

※本事例に記載の内容は、2012年1月に取材を行い、2022年9月に一部の記述を更新したものであり、現在変更されている可能性があります。