株式会社ティージー情報ネットワーク

株式会社ティージー情報ネットワーク

リアルタイム地震情報配信サービス「jishin.net」をRubyで構築

安全にガスを供給し、安心してガスを利用いただく

株式会社ティージー情報ネットワーク(以下、ティージー情報ネットワーク)は、1987年に東京ガス株式会社(以下、東京ガス)情報システム部門より分離独立した。設立以来、ガス料金業務、検針、保安管理など東京ガスのガス供給をつかさどる多くのシステムに対するIT戦略を策定し、システムの構想から、設計・構築・維持・運用にいたるITサービスを担い、東京ガスの「安心・安全・信頼」という企業価値の向上の一翼を担っている。

東京ガスでは、首都圏を中心に1,000万件以上の顧客に対してガスの供給を行っている。東京ガスでは暮らしに欠かせない都市ガスを、24時間365日安定してお届けするため、また、万が一の災害による影響を最小限に抑えるため、さまざまな安全対策、地震・防災対策に取り組んでいる。その中で重要な役割を担っているのが超高密度リアルタイム地震防災システム「SUPREME(シュープリーム)」(以下、SUPREME)である。

超高密度リアルタイム地震防災システム「SUPREME(シュープリーム)」

SUPREMEは、1995年に甚大な被害を出した阪神・淡路大震災がきっかけで構築されたシステムである。阪神・淡路大震災では、被害を拡大した原因の一つに火災があった。当時、地震発生時にガスの供給を迅速に、かつ遠隔から停止できる仕組みはなく、火災の消火を困難にしたという経緯があった。この阪神・淡路大震災を機に、東京ガスでは地震発生時の安全対策として、迅速にガスの供給を停止できるシステムの構築をすすめることになり、ティージー情報ネットワークがその開発を担った。そして、2001年から稼動を始めたのがSUPREMEである。

SUPREMEは、まず東京ガスのガス供給エリア内に約4,000箇所(約1km²に1箇所)ある「地区ガバナ」と呼ばれるガス整圧器に設置された地震計の情報を、地震発生後わずか3分で一斉に集める。そして、あらかじめ登録されている周辺の地形データ及び約60,000本のボーリングデータから算出した推測値をもとに、建物倒壊やガス管の破損などが起きる可能性がある危険な地域を地震発生から5分以内に特定する。さらに、地震発生10分後には特定された危険地域のガスの供給を担当者が遠隔操作により遮断することができるのである。以前は地震発生時に全ての危険地域のガスの供給停止するためには、約40時間かかると想定されていた。しかし、SUPREMEの稼動によりガスの供給停止に必要な時間はわずか10分に大幅短縮された。このSUPREMEによって、火災という二次災害発生リスクが大幅に軽減されたのである。

より早く、確実に危険地域を特定するために

現在、SUPREMEは、Rubyにより構築されている。2001年の稼動当初はC言語で構築されていたが、2004年に地震計との通信手段をIP化することとなり、通信プログラムをRubyで実装することとなった。SUPREMEは、防災という人命に直接関わる極めてミッションクリティカルな業務のシステムである。そのため、地震発生時に確実に動作することが求められる。しかし、地震が発生しなければ、実際に稼動することはないため、本番の地震発生に備え十分にテストをおこなう必要があった。スタート当時は、C言語で開発を進めていた。しかし、処理が想像以上に複雑になり開発スピードがなかなか上がらず、このままではテストの時間が十分に確保できないと判断した。そこで、より短期間で高性能な開発が可能といわれていたRubyに着目し、Rubyを使って開発を再スタートすることとなった。「短期間で、システム構築が進むRubyの生産性の高さのおかげで、さくさくと大変気持ちよく開発が進みました」とティージー情報ネットワーク ITソリューション2部 導管設備情報グループ 課長 武藤 紀之氏は語る。Rubyによる開発生産性の高さを享受しつつ、計算スピードが要求される部分には従来利用していたC言語で拡張ライブラリを作成するなど、効率的に開発を進めることができた。効率化により、テストに十分な時間をかけることができ、RSpecを使ったプログラムテストの他、Rubyで実装した地震シミュレータを用い、シナリオに沿ったテストを実施することができた。その結果、Rubyで開発されたプログラムは非常に安定かつ高速に動作し、利用者からも高い評価を受けて、本格的な業務システムとして稼動することとなった。その後、操作や管理を行うWebアプリケーション部分もPHPからRubyへ変更され、2009年には、SUPREMEは全面的にRubyで実装されることとなった。

ティージー情報ネットワークは、地震発生時にシステムを確実に運用するためには、自分たちがシステムを守り、動かさねばならないという責任感を持っている。地震が発生したときに、ソフトウェア製品の保守窓口に電話サポートを求めたり、さらにはベンダー担当者にオンサイト保守を依頼したりすることは難しいかもしれない。地震が発生した時こそ、安定した稼動をしなければならないシステムであるがために、利用するソフトウェアには、その設計が公開されているオープンソースソフトウェアを積極的に採用し、システムを自分たちで守っているのである。オープンソースソフトウェアであるRubyを採用している理由はここにもあるのだった。

多くの人に正確な地震情報を届け、安全な行動へとつなげる

SUPREMEが収集した地震情報をより多く人に利用してもらい、地震発生時の初動対応・復旧対応に役立てて欲しいという理念からスタートしたサービスが「jishin.net」である。地震発生時には、一刻も早く正確で高精度な地震情報を入手し、早期対応を図ることが求められる。jishin.netでは、SUPREMで収集されたおよそ4,000点の地震データに加え、全国の気象庁震度情報を提供し、自治体や公益事業体、各企業における地震防災対応に役立てられている。提供される地震情報は、パソコンやモバイル端末から入手することができ、いつどこにいても、地震発生に伴う危険度や重要度などを判断しながら、適切な対応、行動につなげることができる。

さらに、jishin.netでは付加価値の高いサービスも提供している。そのひとつである安否確認サービスは、地震発生のおよそ3分後に社員に向けて安否確認のメールを送信し、登録された安否情報をPCやモバイル端末から確認できるサービスである。また、動員メールサービスは、地域、震度により対象者を絞り込んで、メールを送信する機能があり、ガス事業者やビルメンテナンス会社など、施設や設備の迅速な稼動状況確認や復旧作業に役立てられている。

今後を見据え、拡張可能なサービスに

jishin.netが提供するWebアプリケーションは、Ruby on Railsを活用して実装されている。「Ruby on Railsの柔軟性の高さから、今後、さらに拡張が可能なシステムを構築できました。」とITソリューション2部 導管設備情報グループ 佐久間加奈氏は語る。jishin.netでは、地震発生時の情報をGoogle マップを利用して表示している。情報を表示する際に、Google マップから直接データベースを操作させず、Ruby on Railsを経由させることで、今後のデータベースの変更にも柔軟に対応できるようになっている。さらに、今後利用者が増え、求められるサービスが変化しても、Ruby on Railsの柔軟性によってサービスの拡張にも対応できる。この柔軟性・拡張性により、さらに便利なサービスへの進化が見込まれる。

現在、jishin.netは東京ガスをはじめとするガス事業者や、横浜市などの行政に採用され、地震発生時のメールによる情報配信サービスやWEBサイトでの地震情報閲覧サービスなどが提供されている。また、地震発生時に備えて、交通事業やビル管理を行う企業など、サービスを利用する企業も増えてきている。こういったサービス利用企業が増えることで、地震発生時の迅速な対応にもつながり、結果、多くの人たちの安全にもつながると考えられる。

日々の防災への意識につながるサービスに

ティージー情報ネットワークでは、東京ガスの顧客が安全にガスを利用できるよう、SUPREMEやjishin.netをはじめとした様々なサービスの提供を行っている。サービス提供の背景には、普段から「安全」に対する意識が高いことがあり、日々の防災への意識が災害発生時の対応を大きく左右すると考えている。

東日本大震災では、SUPREME、jishin.netともに、確実に稼動し、信頼度の高いシステムを立証できた。立証できたのは、システムだけではない。実際に地震発生時に社内にいた担当者は周囲の状況を見極めつつ、冷静にシステムの稼動を確認し、適切な作業を進めることができた。こういった冷静な状況判断も「もし地震が発生したら」ということを日々意識しながら取るべき行動を想定していたからといえる。今後、さまざまなサービスでjishin.netの情報が活用され、多くの人の目にふれることで、日常の防災に対する意識が高まり、その結果、災害発生時の安全な行動へつながるよう役立つことができればとティージー情報ネットワークは考える。さらなる「安全」を目指し、サービスの進化は続く。そこにはRubyの技術がこれからも貢献していく。

システムイメージ/画面イメージ