日本ユニシス株式会社

日本ユニシス株式会社

Rubyで加速する新しいクラウドサービスの開発

汎用技術からなる新しいタクシー配車システム

日本ユニシス株式会社(以下、日本ユニシス)が2011年末に開始したクラウド型タクシー配車システムsmartaxi(スマートタクシー)は、3G通信を利用するAndroidタブレットとWebアプリケーションを連動させたクラウドサービスである。タクシーはアナログ無線機を使うことがよく知られているが、2016年にはアナログ無線が停波されることが国からの指導で決まっているため、各タクシー会社はそれまでに設備交換を行わなくてはならない。「アナログ無線からデジタル無線へ」という国の方針だが、スマートタクシーはそれとは別の移行選択肢として開発された。株式会社インプレスビジネスメディア主催のTablet Solution Award2012も受賞している注目のクラウドサービスである。

スマートタクシーの強みは、汎用的な技術と製品を組み合せている点である。端末は市販のAndroidタブレット(Galaxy tab)を使い、通信部分は携帯キャリアから提供される3G回線を利用する。各タクシーへの配車指示を送るための管理画面はWebアプリケーションとして構築されており、タブレット端末は専用アプリを利用してこのクラウドシステムと通信を行う。タブレット端末内アプリのアップデートについてはアプリアップデートのための機構を作り込んだが、通信に関しては、3G回線を利用する事により通信可能エリアは日本全国をほぼ網羅している以上、個々のタクシー会社が新たに基地局を用意する必要はない。小売店で手に入るタブレット端末を用意するだけで、これらの環境は揃うのである。

また、スマートタクシーはクラウドサービス全般に共通する利点も持っている。現在、スマートタクシーは関東東北を中心に数社が採用しているが、そのユーザー企業からの要望はサービスに反映されていく。タクシー配車システムのような業務管理システムには各企業に共通する要素が多く、これらのシステムアップデートの恩恵は利用者すべてが享受できる。これは自社でアナログ無線からデジタル無線に移行した場合には得られない最大のメリットである。

ビジネスモデル実現のために選定されたRuby

日本ユニシスは創業50年以上の老舗IT企業であり、金融機関や官公庁、製造流通系の基幹系システム開発を強みとしており、提供しているソリューションとしては勘定系システムや物流系システムなどに代表される大規模なバックエンド系が中心で、開発言語としてはJavaや.NETを利用する事例が多かった。そうした意味において、タクシーに端末を搭載してクラウドサービスを提供するという、タクシー配車ソリューションは同社にとってある種のチャレンジだった。 と同時に、2016年のアナログ無線停波による設備移行は大きなビジネスチャンスでもあった。2012年現在20万台以上あるタクシーの約7割がアナログ無線を搭載したままであり、移行需要は大きい。さらに、新方式であるデジタル無線の通信速度は9.6Kbps程度と、3G通信の7.2Mbpsと比べるとかなり見劣りする。音声通信機能や決済機能などを今後盛り込んでいくことを考えれば、無線機の代わりにタブレット端末を搭載するスマートタクシーは、十分に魅力的な代替ソリューションだった。

「経験のある業務システムなどの案件であれば技術的にこうすればいいという検討はつくのですが、スマートタクシーに関しては、タクシー業界との仕事がはじめてだったこともあり、手探りになることがあらかじめわかっていました」と、アドバンスド技術部Webビジネス技術室Rubyスペシャリストの篠田健氏は言う。これまでもFacebookアプリや通常の業務アプリなどをRubyで作成した経験があったため、素早いモックアップ作成とフィードバックを得てからの修正作業にはRubyが適しているという認識はあった。新しい業界への進出というチャレンジを実現するためにも、柔軟な開発が可能だということで、Rubyでの開発が決定された。

新規サービスゆえに求められるスピードとコスト

すでに確立されたビジネスモデルを持つ企業にとって、新しい業態へのチャレンジでは早く結果を出す必要がある。本来であれば自社の得意な案件に割り振るべきだったリソースを割いてチャレンジするのだから、それに見合った結果が必要になるのだ。これは日本ユニシスも例外ではなかった。サービスの開発にはスピードが求められ、低コストでのサービス立ち上げが必要となる。

サービスの開発はケイエム国際タクシー株式会社(以下、ケイエム国際タクシー)の協力のもと行われた。開発チームは端末用Androidアプリ開発者3名、Ruby on RailsによるWebアプリケーション開発者3名の計6名である。開発期間は6ヶ月程度で、2ヶ月でサービスの大半が完成、3ヶ月目には実際のタクシー3台に設置して1ヶ月間実証実験を行い、残り3ヶ月で実証実験の過程で出た要望の取り込みとバグ修正を行った。

ここまでスピード感溢れる開発が可能だった理由の一つに、Rubyが持つ豊富なWeb系ライブラリとその利用ノウハウがある。クラウドサービスの画面は多くの場合Webアプリケーションとして作成されるため、Web開発言語として利用されることの多いRubyは適している。また、ケイエム国際タクシーからの要望を受けることで発生する細かな改善についても、文法が簡潔で保守性の高いRubyの特徴が役に立った。ビジネスサービス事業部の村島光太郎氏は「体感速度として3倍程度早かった」と感じている。

スマートタクシーはケイエム国際タクシーによる実用化検証を経てリリースされた。クラウドサービスは定期的にメンテナンスおよび機能改善をしていく必要がある。必要な作業としてはタブレット端末アプリのアップデートとWebアプリケーションのアップデートだが、極力Webアプリケーションで吸収するようにしている。タブレット端末は現状のOS仕様だとタクシーに搭載した端末ごとにアップデート作業が必要になるためだ。その一方、Webアプリケーション側は保守性が高いRuby on Railsの利点を活かして素早く改修することができる上、変更はユーザーすべてに対して反映される。こうした細かな改善の結果、ケイエム国際タクシーの配車率は向上し、スマートタクシーは新事業として成功のスタートを果たしている。

タブレット端末とクラウドを中心とした新しいサービス開発へ

スマートタクシーの売り込みはタクシー会社に対してすでに行われており、採用実績も出てきているが、タクシー会社以外からの反響もあった。「実際にサービスを見たお客様から『こうすればうちの業界でも使えるのではないか』という提案を幾つか頂いています」と、村島氏は言う。タブレット端末の普及自体がごく最近の出来事であるため、クラウドサービスとの組み合わせから新しいビジネスが発生する可能性は高い。

すべてのIT企業は成長し続けることを求められる。老舗の日本ユニシスもそれは例外ではなく、新しい事業を次々と展開している。その一翼を担うのがクラウドサービスであり、クラウドサービスにはほとんどの場合Webアプリケーションが必要となる。アドバンスド技術部Webビジネス技術室グループリーダーの小倉雅人氏は「要件変更や修正の多いクラウドソリューションにはRubyでの開発が向いていると実感しています」と、手応えを感じている。この成功を受けて、Webアプリケーションを作成する技術の選択肢として、元々得意としていたJavaや.NETのほか、Ruby on Railsによる柔軟な開発が加わった。現在は求められる要件や開発規模などの観点から、採用する言語や開発手法を選定しているという。

日本ユニシスにとってチャレンジングな開発となったスマートタクシーにおいて、Rubyはサービス成功の一因となった。同社は引き続きRubyの可能性を活かし、新しいソリューションを模索している。

参考写真

●一般的なデジタル無線とスマートタクシーのサービス比較

●タクシーに端末(Galaxy tab)を搭載してサービスを利用する

●Ruby on Railで作成された管理画面の様子

※本事例に記載の内容は2012年8月取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。