シーイーシークロスメディア株式会社

シーイーシークロスメディア株式会社

メディアコンテンツ作成サービスを支えるRuby on Rails

エンターテイメントコンテンツの作成と配信をサポートする企業としての出発

シーイーシークロスメディア株式会社(以下シーイーシークロスメディア)は、大手SI企業である株式会社シーイーシーのコンテンツ事業部を分社化する形で設立された、コンテンツ作成・配信ソリューション提供企業である。分社化以前から手がけていたサービスとしては日本の伝統工芸を紹介するWebサイト「Japancraft.jp」やショッピングモール向け携帯電話ソリューション「携帯モールナビ」、写真共有Webサービス「Party Photo Clip」などがあり、そのDNAは「メディアミックスコンテンツの作成および配信ソリューションの提供」にある。

シーイーシークロスメディアが提供するサービスの一つ、MoovieBook Enterpriseは同社の主要事業であるコンテンツ作成クラウドソリューションだ。まず、同社の提供するデスクトップアプリケーションMoovieBook Creatorにより、プログラムの知識なしにマルチメディアコンテンツを作成することができる。作成された専用フォーマットのデータはリアルタイム配信機能を持ったサーバへアップロードされる。そして、これらのデータを同社の提供する専用のiOS・Android用リーダーアプリによって表示することができる。このサービスを利用することで、営業担当者はデジタルカタログや各種販促ツールといったマルチメディアコンテンツをいつでも利用することができるようになる。

Ruby on RailsによってWebサービスを次々と開発

MoovieBook Enterpriseはクラウドサービスであるため、データを保存・配信するためのサーバと管理画面およびAPIが必要になる。シーイーシークロスメディアでは、このクラウドサービスの構築にRuby on Railsを採用している。スマートフォン用アプリケーションとクラウドサービスの連携にはJSON形式を利用しているが、こうしたWeb開発に必要な機能はRuby on Railsにもともと備わっているため、わずかな開発工数でCMS管理画面を作成することができた。同社開発ユニットスペシャリストの廣田哲也氏は「既存のソースを流用することで、1人月程度で開発することができました」と語っている。

シーイーシークロスメディアは分社化以前、2008年頃からRuby on Railsを利用している。それ以前はJavaなどの言語で開発を行っていたが、開発担当者が試しにRuby on Railsを採用してみたところ、開発スピードが圧倒的に向上した。Webサービスの場合は公開後も機能向上やバグ修正を含めてメンテナンスし続けていく必要があるため、コードを書いてからリリースまでを素早く行えるRuby on Railsの高い生産性が効果を発揮した。とりわけ、サービスを立ち上げた後の改修速度については高く評価しており、MoovieBook Enterpriseでは「要求があってから機能の追加まで1〜2週間程度で変更できています」と、廣田氏は語っている。同社が公開しているスマートフォンアプリParty Photo Clipでも、サーバサイドの処理についてはRuby on Railsで構築している。

 

Ruby on RailsによるWebサイトやAPIの開発はすべて少人数で行われる。「ほとんどのサービスは既存のソースを活用することで3人月ほどで完成しています」と廣田氏は語る。Webサービスをヒットさせるためには、少ない工数で素早くサービスをリリースし、ユーザーの要望に応じてサービスを改善していく必要がある。こうした同社の戦略を実現するためにはRuby on Railsの高い生産性が必要不可欠であり、多くのWebサービスをRuby on Railsで作成している。

これまでのノウハウを活かした新しい電子書籍サービスの立ち上げへ

シーイーシークロスメディアは、2012年10月、EPUBオーサリングWebサービスであるTigris Plusをスタートさせた。同サービスの特徴は、汎用電子書籍フォーマットであるEPUBをオンラインで作成できること、特に固定レイアウト作成に特化している点である。EPUBを作成できる競合サービスは幾つかあるが、雑誌や絵本などのビジュアル要素が多いコンテンツに向いた固定レイアウトをGUIだけで作成できるサービスは他にない。電子書籍の技術的な仕様などを知らないユーザーでも、写真をアップロードし、ビジュアルエディタで最新のEPUB3.0を作成することができる。

EPUBはiPadをはじめとするタブレット端末やスマートフォン、電子書籍リーダーで閲覧することを想定された電子書籍用ファイル形式で、実体としてHTMLとCSSをZIP形式に固めたものである。EPUBを生成するということは、結果的にHTMLやCSSを生成するということであり、Webサイトの構築とかなり似ている。このためTigris Plusにおいては、Ruby on Railsの持つWeb系ライブラリがEPUB生成にも多いに役立っている。

また、Tigris Plusの固定レイアウト対応などは、Ruby on Railsの高い生産性なくしては提供が難しい。EPUB自体が現在進行形で仕様が変わりつつある規格である上、 固定レイアウトはEPUB 3.0から採用された新しい機能だからである。閲覧用端末ごとの対応も一筋縄ではなく、ソフトウェアのバージョンアップや新端末が発売されるたび柔軟に対応していく必要がある。こうした激しいバージョンアップを前提としたサービスを成立させるためには、Ruby on Railsのように高い生産性を持つフレームワークを土台としなくてはならない。

「元々はSYU.HA.RIというHTML5ベースのiOS向け電子書籍アプリケーションを販売したことがきっかけで、電子書籍事業に力を入れるようになりました」と、廣田氏は言う。MoovieBook Enterpriseと技術的なベースは異なるが、シーイーシークロスメディアの主要事業であるコンテンツ作成ソリューションとしては一貫したサービスだ。現在のTigris PlusはEPUBの作成をサービスの中心としているが、今後は作成したEPUBを出展・販売するためのブックストアサイトを立ち上げる予定である。電子書籍はまだ成長途上のマーケットだが、コンテンツ作成ソリューションを提供する同社にとってはチャレンジする価値のある市場である。

シーイーシークロスメディアは創業時から「一億総クリエーターと言われる時代にコンテンツ作成ソリューションを提供する」という理念を抱え、様々なWebサービスを提供してきた。同社の提供するサービスの裏側では、その理念の実現のために、Ruby on Railsの高い生産性と豊富なWeb系ライブラリが一役買っているのである。

参考写真

●MovieBook Creatorはコンテンツを管理するクラウドサービスだ

●MovieBook Creatorはコンテンツを管理するクラウドサービスだ

●Tigris Plusのオンラインエディタ。ユーザーは直感的にEPUBを作成できる

※本事例に記載の内容は2012年10月取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。