株式会社日立ソリューションズ

株式会社日立ソリューションズ

Rubyの高い生産性で実現したリメディアル教育システム

大学教育の新しい課題、リメディアル教育

大学進学率の向上、AO入試などの多様な受験形態、そして過度な受験勉強への反省から生まれた「ゆとり教育」は、学生の基礎学力低下という新たな課題を大学に突きつけた。「分数を解けない大学生」といった形でセンセーショナルに取り上げられたこともあったが、学生が壁にぶつかる段階は多岐に渡っており、入学時から勉学についていけず結果的に退学してしまう、あるいは卒業年次に卒業課題を完了できず内定先に就職できなくなる、などの諸問題として表れた。こうした学力低下への処方箋として「リメディアル」と呼ばれる教育が生まれた。

学校法人関西文理総合学園長浜バイオ大学(以下、長浜バイオ大学)もリメディアル教育に取り組む学校の一つだった。2003年に設立された長浜バイオ大学は、最先端のバイオサイエンスを教える単科大学である。学部こそ1つであるが、滋賀医科大学と連携したバイオ医療や生態系について研究する環境生命科学、タンパク質や代謝のメカニズムについて研究する分子生命科学など、いずれも基礎学力なくしては取り組むのが難しい分野が揃っている。そのため、リメディアル教育によって学生達の学力を底上げすることは急務であった。

長浜バイオ大学はシステムインテグレーションでの実績が豊富な株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)にリメディアル教育システムの開発を依頼することとなった。日立ソリューションズは教育関連にも豊富な実績を持っており、ベンダーとしては申し分なかった。

コンセプトから始めるRuby on Railsのプロトタイピング開発

リメディアル教育はその枠組み自体がまだ生まれて間もない。当然、リメディアル教育とITテクノロジーを組み合せたシステムにセオリーがあるわけではなく、暗中模索していかなければならない状況だった。システムのターゲットユーザーは、基礎学力が足りず、リメディアル教育による補修が必要な学生である。そこで長浜バイオ大学はコンセプトとして「わくわくどきどき」を掲げ、「楽しく学べる学習支援システム」を目指すこととした。ただし、予算は限られており、低コストでスピーディに開発を行う必要があった。

日立ソリューションズは許された予算の中でよい結果を出すために、コンセプトを具体的なシステムの形に変えていった。中でも、Ruby on Railsのプロトタイピング開発は、長浜バイオ大学のメンバーとのミーティングで力を発揮した。Ruby on Railsを利用すれば実際に動く画面までをスピーティに開発できる。クライアントは実際の画面を見ながら確認していくことで納得感を持ちながらシステムの仕様を固めていくことができる。サービスの提供者であるクライアントはシステム開発の専門家ではないため、画面を見ることによってアイデアが生まれてくる場合もある。実際に、プロトタイプの画面を見せることで「こんな機能を実装することはできますか」という質問が出てくることも多かったという。

漠然としていたコンセプトから徐々に具体的なアイデアが生まれ、「ゲーム形式の内容」「教員と学生がコミュニケーションを取れる」「ユーザーがアバターを持つ」「ランキング形式で競争する」「既存のeラーニングシステムと接続する」などの実装要件が確定していった。日立ソリューションズ公共システム事業部の主任技師である江野脇宏氏は要件定義の段階でのプロトタイピングがプロジェクト達成に不可欠だったと感じている。

最終的に完成したシステムは「バイオ学習ワンダーランド」と名付けられた。宝箱や2Dマップといった、ゲームに親しんだ世代にはお馴染みの要素が盛り込まれたロールプレイングゲーム形式のシステムである。選択形式の問題を解き、規定の正解率を達成することでポイントが手に入る。集めたポイントによってランキングが競われ、アバターを着せ替えすることもできる。付属の掲示板では学生同士がコミュニケーションを取り、週間ポートフォリオを利用して学習計画を立てることも可能だ。これらの機能はWebブラウザから利用でき、iPod Touchなどのスマートデバイスからも閲覧可能である。「バイオ学習ワンダーランド」は2011年から稼働を開始し、長浜バイオ大学の学生に利用されている。

日立ソリューションズ独特の取り組み

日立ソリューションズはシステムインテグレータとして様々な案件を請け負っており、プロジェクトの種類と規模は多岐にわたる。当然ながら使用する言語も複数あり、プロジェクトの特性と言語の特徴を照らし合わせることで使用環境を決定している。Rubyの場合は中小規模の案件で積極的に採用されている。簡潔な文法や豊富なライブラリ、プロトタイプを作成するまでのスピードの早さがその理由だ。

そして、巨大企業である日立ソリューションズだからこそ持てるユニークな組織がある。それがRubyによるシステム開発専門組織のRubyセンタだ。RubyアソシエーションのRuby認定技術者を中心とした100名近い組織で、全社を横断するRuby専門の窓口として存在する。対外的な活動だけでなく、エンジニアのアサインおよび教育や使用する、Rubyライブラリの選定、社内イントラでの情報提供など、内部的な業務も多く行っている。こうした組織を社内に持っているという特徴は、Rubyアソシエーション認定システムインテグレータであり、1万名超の社員を抱える日立ソリューションズならではといえる。

長浜バイオ大学の「バイオ学習ワンダーランド」においても、Rubyセンタとのコミュニケーションによって開始当初の開発環境を整えた。公共システム事業部ではRubyでの教育システム開発経験があったため、プロジェクト開始当初のみのサポートとなったが、案件によってはRubyセンタの人員をアサインし、「開発が起動に乗るまでチームの中心となる」ケースもあると、同社公共システム事業部のエンジニア川口弘晃氏は言う。

社内的なサポート機能はJavaなどの言語でも用意されているが、Rubyセンタのような専門組織が用意されている言語は他にない。特にここ3年ほどでRuby on Railsの機能が目覚ましい拡充を見せていると川口氏は感じている。

Rubyの機動力を積極的に利用していく

日立ソリューションズ公共システム事業部では長浜バイオ大学の「バイオ学習ワンダーランド」のように、教育機関などから依頼されるシステムが多い。事例としては大学の教職課程における課外活動の予約システムや、薬理情報公開データベースなどがあり、そのいずれもRuby on Railsで作成されている。

日立ソリューションズには、クラウドシステムとの連携やWebブラウザベースのシステムといった案件を受注する機会が増えたことで、Ruby on Railsによる開発のノウハウが貯まっている。場合によっては、新人にRubyから教えることもあるという。今後も中小規模の案件を中心にRuby on Railsを積極的に採用していく構えだ。

参考写真

●バイオ学習ワンダーランドのログイン画面

ログイン画面

ログイン画面

●RPG風の画面で楽しみながらリメディアル学習を行っていく

秘密の小部屋

●全学生が所有するiPod Touchでも利用することができる

iPod版トップ画面

※本事例に記載の内容は2012年12月取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。