Rubyプログラミング少年団

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子供達にプログラミングの楽しさを教える。

島根県では日本体育協会が1962年に創設したスポーツクラブである、スポーツ少年団の活動が活発に行われているが、スポーツという題材をコンピュータのプログラミングに置き換えて、子供達にプログラミング教育を普及させる活動を行っている団体がある。

松江市のIT企業に勤める高尾宏治さんと本多展幸さんが主催しているRubyプログラミング少年団は、島根県を中心に、子供達向けのプログラミング教室を実施している。

学生時代の経験が現在の活動を考えるきっかけに

2012年、中学校での技術家庭科において、「プログラムによる計測・制御」が必修となり、また世界のビジネスリーダー達が言及するなど、ビジネス界からの要請も注目を集めるプログラミング教育だが、Rubyプログラミング少年団をおこなうきっかけとなったのは、高尾さん、本多さん両者が学生時代に体験した、ある共通の思いがあったからだ。

ともに学校で情報工学を専攻した2人だが、その分野に興味があって進学したはずなのに、コンピュータを学習していくにつれてプログラミングへの興味を失ってしまう同級生が少なくなかったようだ。

「高専時代、コンピュータでこれがやりたいという明確な目的をまだ見つけていない生徒に対して、数値表現やアルゴリズムを教え続ける学習方法は、コンピュータに対する苦手意識を産む原因になっていたかもしれない」(高尾さん)

子供たちへのプログラミング教育が必修化(現在では、まだ僅かなコマ数だが)されたことによって、逆に苦手意識を持つ子供も増えるのではないかという懸念から、Rubyプログラミング少年団では、まずはコンピュータ制御によって、具体的に何ができるのかを体験し、プログラミングの可能性と楽しさを感じ取れる場を提供したいとの考えがある。

「その上で学校における基礎的なプログラミング教育を受けて欲しい」(高尾さん)

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保護者と一緒にプログラミングを体験する重要性

Rubyプログラミング少年団は、現在3つの活動が主な内容となっている、一つ目は1日Rubyプログラミング体験イベント、また体験イベントで興味を持った子供たちが継続的に参加できるプログラミング道場、そして最後にプログラミングの学習ツールである、スモウルビー(Smalruby)の開発だ。

その中で、1日Rubyプログラミング体験の活動では保護者の参加が目立つ。送り迎えのための付き添いで参加した訳ではない。イベントでは大人も一緒にプログラミング体験を受講できる環境を整えているのだという。その理由は、保護者も一緒にプログラミングで何ができるのかを理解して欲しいという狙いがあるからだ。

保護者の方に、お金を払ってまで子供達にプログラミングを学ばせたいかと聞いてみても、学校や塾で、数学、国語、社会などのカリキュラムを学ぶ必要があるのに、なぜ敢えてプログラミング学習にまで手を出す必要があるのかという考えがやはり主流なのだそうだ。これでは、なかなかプログラミング教育も普及していくことは難しいだろう。

「プログラミングで何ができるのかをまずは、大人が子供以上に深く理解して、その可能性を知って欲しい。そして、保護者が子供のプログラミングを学びたいという意思を尊重できる環境を作りたい」(高尾さん)

1日Rubyプログラミング体験では、ブロックを組み合わせ、視覚的なプログラミングができるスモウルビーを活用している。大人の場合は1日でおおまかなプログラミングの、いろはを理解できるようだ。

「子供以上に興味を持って質問をしてくれる方もいる」(本多さん)

との言葉が表すように、まずは、大人がプログラミング教育への理解を深めるというRubyプログラミング少年団の考えは、無事成功していると言えそうだ。

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スモウルビーを活用し年齢に応じた学習方法

スモウルビーは米MITのメディアラボで子供の教育向けに作られた言語であるScratchと同じように、ブロックを組み立てることによってゲームやアニメーションを作成することができる。ただし、スモウルビーはブロックのプログラムをテキストベースのRubyコードに変換でき、またその逆も可能である。この変換の機能によって年齢と知識に応じた使い方も可能になるだろう。

これまでのプログラミング教室の開催経験で得た知見から、小学生と中学生とでは、プログラミングの学習方法が少し異なることが分かっている。

「小学生はアイディアをどんどん自分のプログラムに入れていくことに興味を持つが、その一方で中学生は、自分のアイディアを具体化するよりも、プログラムを論理的に理解したいという欲求が強い」(本多さん)

スモウルビーの特徴を活用して、小学生はブロック主体で楽しさに重点を置いた教育を行う一方、中学生では実際にRubyのコードも使いながらプログラムを作成するなど、よりプログラミングの本質に近い、教育方法を考えることができる。

学校教育における評価の難しさ

松江市が取り組むRuby City MATSUEプロジェクトのRuby人材育成の一環として、先述した中学校の必修授業でスモウルビーを使った実証実験が行われている。

学校教育における、プログラミング教育では、誰が教えるのかということが度々問題として取り上げられていたが、スモウルビーのように視覚的なプログラミングを行えるツールを使えば、
「技術家庭科の先生であれば特に問題なく行うことが可能だった」(高尾さん)というように、ある一定の成果を残すことができた。

それとは対照的に、評価については難しい。画一的な評価基準を作ることが難しいため、現段階では課題を提示しそれに対する達成度で評価をしている。プログラミングを学ぶ楽しさを感じてもらうことを維持しながらも、個人の評価をどのように実施するのかは、大きな課題になってくるだろう。

今後の目標

Rubyプログラミング少年団は今後、1日プログラミング体験イベント、プログラミング道場などの枠組みを確定し、日本全国の各地域での普及を展開していくことが当面の目標だ。

スポーツ少年団のように各地域での活動は、その地域ごとの自主的な組織に委ねながらも、スポーツにも全国大会があるようにプログラミングコンテストの開催を企画し、子供達がより意欲的に取り組めるような仕組みの導入も考えている。

Rubyプログラミング少年団の公式サイトには、定期的に開催されるイベント実施レポートが掲載されている。現在は遠方で参加できない読者も、イベントの様子が伝わって来る写真が多く掲載されているので確認して欲しい。(http://smalruby.jp/

参考写真

Rubyプログラミング少年団を主催する、本多さん(左)と高尾さん(右)

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※本事例に記載の内容は2015年2月取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。