島根県庁

シーイーシークロスメディア株式会社

Rubyによる産業構造の転換

Rubyによる県内IT産業振興

歴史ある観光名所を有する島根県。縁結びの神として知られる出雲大社や、世界遺産に登録されている石見銀山遺跡などに、毎年多くの観光客が訪れている。その一方で、島根県内では、全国第二位の高齢化率に反映されるように、労働力人口の減少は深刻な問題となっている。若年層の流出を防ぐために、産業振興による雇用創出は喫緊の課題のひとつとなっている。

そのような中、2007年に島根県知事に就任した溝口善兵衛氏は、「しまね産業活性化戦略」を策定し、戦略の柱のひとつに「ソフト系IT産業の振興」を掲げた。世界で普及の進みつつあったプログラミング言語「Ruby」の開発者であるまつもとゆきひろ氏が島根県在住であることに着目し、「Ruby」を軸にソフト系IT産業の振興を図った。ソフト系IT産業は、場所にとらわれず働けるケースも多い。また、自然あふれる島根県の環境は、ソフトウェア開発という知的労働をする上で有利に働く可能性に満ちている。島根県では2007年度以降、ソフト系IT産業で従事する人材の育成や、ソフト系IT企業の販路拡大に対して、様々な施策を打ってきた。

Rubyによる自治体業務システム開発

島根県のソフト系IT産業振興施策により、県内ソフト系IT企業の多くはRubyを活用した開発力を強化していった。この県内ソフト系IT企業の開発力を背景に、島根県では自庁内のシステムを刷新するにあたり、Rubyを開発言語のひとつに選定した。

島根県庁では2000年問題の際に更新したシステムが、その後約10年間稼働してきていた。しかし、利用技術のサポート期限切れもあり、2011年に刷新することにした。刷新にあたっては従来のクライアント・サーバー型のシステムからWebシステムへ移行することになった。ただし、業務改革(BPR)を伴うものではなく、技術基盤の更新を主目的とした移行であったため、IT投資額は極力抑える方針が採られた。投資額を抑制するため採られた手法が共通基盤の整備である。共通基盤の整備では、業務システムの開発言語をRubyとJavaの2つの選択肢に絞り、統一の開発規約を設けたり、複数の業務システムが共同利用する稼働環境(ハードウェア、OS、データベース、ミドルウェア)、共用データ、共通機能等の技術基盤を構築したりするなどの全体最適化が図られた。そこで、島根県庁は、2009年から調達を行い、結果として、16業務のうち14業務がRubyで開発されることとなり、そのすべてを県内企業が受託した。

島根県庁では、2006年に自庁のホームページ管理システムの開発にRubyを採用した経験があった。アクセシビリティに優れたシステムを短期間で導入でき、Rubyの柔軟性を評価していた。また、2011年3月にRubyがJIS規格化されたことで、長期間に亘ってシステム運用する上での技術の継続性についての安心感もあった。その一方で、ホームページ管理などと異なり、正確性が求められる複雑な計算処理や大量データ処理などが当然のようにクリアされなければならない業務システムへの適用に、島根県庁では不安を抱いていたのは事実だ。しかし、その心配も杞憂に終わった。貸付・償還業務での金利などが異なる多様な条件に基づく毎回の償還額の計算や、繰り上げ償還に伴う再算定などの複雑な計算も正確に処理することができた。また、年度別償還状況の集計といった一度に大量のデータを扱う業務も問題なく処理できた。また、Rubyで開発する際に課題になると想定していた帳票出力についても、帳票管理ツールとそのインターフェースを地元企業が開発し提供したことで、解決された。このような業務システム特有の複雑な要件に対しても、Rubyで開発されたシステムは問題なく応えたのであった。

島根県庁が開発を委託した県内各社のほとんどが、自社環境で各業務ソフトウェアを開発し、納品をした。共通基盤の構築からその後の業務システムを含めた全体の運用支援を担当している株式会社テクノプロジェクトの第一ビジネス部 担当課長 内田和樹氏は、「納品されたソフトウェアを本番環境に移植するにあたって、開発環境との差異の影響を受けにくいRubyのおかげでスムーズな移植を実現できた」とRubyの移植性の高さを評価する。Rubyの移植性の高さは、各業務システムを開発した県内各社の開発環境整備に係るコストの抑制にも寄与しており、システム刷新全体に対する島根県庁の初期投資額抑制に役立ったと言える。

島根県を支えるRuby

「Ruby」を軸としたソフト系IT産業振興施策は、数字の上で如実に成果が上がっている。県内ソフト系IT産業の売上高は、2007年度には約120億円だったものが、2011年度には178億円へと、従業員数は2007年度には約1,400人だったものが、2011年度には約1,900人へと増大している。2012年度は、島根県庁自らのRuby採用がさらなる産業振興に影響を及ぼしたことであろう。

この自庁導入の意義は、公共事業による経済波及効果だけではない。地元ソフト系IT企業が、さらなる事業展開を進めるための、実績とスキルを上げることに寄与している。自治体業務システムを開発したという実績は、顧客に信頼感を与えることができ、自社製品の拡販あるいは新規顧客開拓をする上でアドバンテージに働く。実際に、島根県のソフト系IT企業のプレゼンスは次第に向上してきている。

「Ruby」により、初期導入費を抑えながら、庁内システムを刷新した島根県。同時に産業振興も実現した島根県の手法は、他の自治体の施策にも影響を与えていくことだろう。

開発イメージ/業務システム一覧

●Rubyによる自治体業務システムの開発

●Rubyによる業務システム一覧

※本事例に記載の内容は2012年11月取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。