株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ

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一期一会のイノベーション

Windowsストアで提供されている「EveryBoard」は共創支援&学習支援ツール群「WebコアInnovation Suite」の一部を成すWindowsアプリだ。
http://www.ssl.fujitsu.com/products/wcis/

コルクボードのような外観を持ち、写真や、カードやメモなどをスキャンした画像を取り込んで貼り付けることができる。

ワークショップで活きるEveryBoard

タッチパネルでの利用を想定している。ちょうどホワイトボードに付箋を貼り付けたときのように自在に移動させたり、回転させたりして、整理したり、分類したりできるのが特徴である。また、画像を拡大・縮小することもできるほか、画像に含まれる位置情報をもとに地図上に配置させることも可能だ。

たとえば地図上でランドマーク上にいくつもの画像が重なったときなどには、画像の位置情報を維持したまま表示上の位置をずらして見やすく整えることができる。こういった気の利いた機能があるのも特徴の一つと言える。

EveryBoardはワークショップでの利用を主な用途としていて、コルクボード風の背景は自由に変えることができ(この機能はテンプレートと呼ばれる)、利用される際の様々なストーリーに応じて設定できる。ソフトウェア開発で身近なところではカンバンやKPTなどといった具合いだ。

また、自動的にスナップショットを撮る機能もあり、ボード上がどのように変化していったかを振り返ったり、途中からやり直すのに役立てられる。

撮ってきた写真をその場で貼り付け

EveryBoardは、EveryBoard Serverと呼ばれるサーバ機能と組み合わせて利用することで、スマホなどからアップロードした画像を即座にボード上に表示することが可能となる。

その際、なぜその写真を撮ったのか、どのような「気付き」があったのか、といった写真についての情報のほか、あらかじめ決られたタグやフィールドワークの班などの属性的な情報を添えることができる。

フィールドワークをもとにしたワークショップでの、フィールドワークで撮影した写真を使ってディスカッションを行うケースや、ワークショップ参加者がそれぞれに用意してきた資料を示したい場面などで活用できる機能だ。

鍵となるのは一期一会

EveryBoardが利用される主な場所は大学や自治体、会社などで、利用を決めるのは大学の先生や専門のファシリテータなど、ある程度限られた人たちとなる。一方、実際に手で触れて活用するのは、開催されるワークショップの参加者であり、それは一般の学生だったり、一般の市民だったりで、つまり、専門的な知識を持たない、初めて使うことになる人たちであることが多い。

また、ワークショップには同じメンバーが集まることはあまりなく、開催されるその時にだけ集まって、わいわいとディスカッションをしたら解散する。一期一会の場である。

そうした場でパソコンを使ってもらうというのは意外にハードルが高い。パソコンを使い慣れた人であっても、自分のものではない、慣れないパソコンを使うとなると手間取ることが少なくない。それでも時間の限られているワークショップの中で説明に十分な時間をとるのは難しい。

だから、初めてであってもすぐに使えることが非常に重要で「5分で使えるというくらいでなければ役に立たない」

一期一会のための実装

ワークショップが一期一会であるからには、その場で使用されるEveryBoardとの触れ合いも一期一会である。そのような考えから、いくつかの点でそれにそぐうように工夫が入れられている。

たとえば、タッチパネルで直観的かつなめらかに利用できるようシンプルなUIにこだわった。タッチ操作であれば2歳児からご老人まですぐに操作できるのを実際に目撃し、これであればPCをワークショップで使えるかもしれない、と考え実装した。混乱を招くボタンや機能は極力減らした。また、途中で誤ってアプリを終了させてもデータが壊れず再起動だけで復旧できるよう、自動保存やEXIFによる写真そのものへのデータ埋め込みをしている。

スマホからの画像のアップロードには、モバイル通信のみを使用し、無線LANをあえて使わせないという使い方も工夫のひとつだ。スマホのブラウザからURLを入力するだけでアクセスできる。

初めての無線LANには、なかなかつながらないことが多い。大学生であっても簡単とはいえず、まして子供やお年寄りとなれば全員の接続を確保するのはかなり難しい。その上、社内ネットワークには個人のスマホを接続することが許されていないことが多い。

そこで、インターネット上にEveryBoard Serverを配置し、そのURLに対してスマホから写真を送信するようにした。そこを中継として、タッチパネルPC上のEveryBoardアプリに対してWebSocketにより、リアルタイムで送信する仕組みだ。WebSocketを使った通知を受ける仕組みを組み込んでおり、ワークショップ開催場所が社内や学内のネットワークであっても、スマホからリアルタイムに写真の受信ができる。

ワークショップでのさまざな機会どれもは一期一会であるが、個人のスマホを使えるようにすることで使用する機材については慣れたものを、一期一会ではないものとすることができる。

Railsの採用

一期一会の工夫を支えるのはRailsによって開発されたEveryBoard Serverだ。

Railsが採用される経緯の大本には2008年に始まった勉強会がある。その勉強会をきっかけにして2009年にRailsを使ったアジャイル開発(*1)を行い、「これからはこんなに簡単にwebアプリが作れるんだという実感」を得るとともに、Railsによる開発のノウハウを集めることができたそうだ。そのノウハウがEveryBoardServerの開発に活かされている。

開発開始はおよそ2年前。Railsであること以外はほとんどはじめてのチャレンジばかりで、主要機能であるEXIFの読み書きをはじめとする画像処理や、リアルタイムな画像表示のためのWebSocketの実装などもそうだ。多くのチャレンジがあったものの有用なgemを多く活用できたこともあり、主要な部分は最初の2ヶ月のうちに実装することができた。

WebSocketに関する部分などは「当時すでにnode.jsが流行り始めていたがRubyで書きたいがためにRubyでの実装(EventMachine)を採用した。結果を見てみれば簡単に書くことができたし、その上かなり安定している」とのことだ。

技術者の道具

EveryBoard ServerへのRailsの採用には、会社としてRubyを含めたOSSサポート体制があった(*2)ということも作用した。2010年頃から資格取得の取り組みがあり、実際に資格をとった技術者が増えたのも後押しした部分がある。

技術者は常に勉強していかなければならないが時間は限られている。そのため、よいものでしかも将来のビジネスにつながるものを選択する必要がある。「その時にRubyっていうのは輝いて見えたし、未来があると信じたい」と開発者は語る。

「モノづくりより、コトづくりが重要視される昨今、そういう観点でいえばRubyは道具にすぎない。しかしかつてサムライが自分の剣を命だといって大事にしたように、技術者が使う道具も自分が信じて選んだものを大切に使うべきだと思うし、良い道具を適切に使いこなすことで良い製品を作ることができる。これからもそういう思いでRubyを使っていきたい」

参考情報

system

(*1)
このとき開発された「ききマネージ」は「Ruby & Ruby on Rails の適用事例詳細」(日本OSS推進フォーラム、2011年4月)に掲載された。
http://ossforum.jp/jossfiles/20110411_use_cases_of_Ruby_on_Rails_1.pdf

(*2)
社内での活動のほか、株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリはRuby/OSS分野で次の社外団体に所属している。

・日本OSS推進フォーラム アプリケーション部会(旧Rubyタスクフォース) B会員 2009/11加入
http://ossforum.jp/application_sub

・(財)Rubyアソシエーション 評議員(協賛企業会員)2011/7加入
http://www.ruby.or.jp/

・福岡Rubyビジネス拠点推進会議 顧問企業 2012/4加入
http://www.digitalfukuoka.jp/

・ビジネスOSSコンソシアムJapan 認定ブロンズインテグレーター(協賛企業)2012/5加入
http://www.boss-con.jp/

・日本CloudFoundryグループ 参加企業 2012/2加入
http://cloudfoundry.gr.jp/ 

※本事例に記載の内容は取材日時点のものであり、現在変更されている可能性があります。