株式会社マチマチ

「開かれた繋がりのある地域社会をつくる」をミッションとしているマチマチ

今回、株式会社マチマチの武者晶紀氏にお話を伺った。

マチマチは、自分の街に関心のある人があつまって、地域社会での暮らしをよりよくするためのコミュニティの場としての地域SNSを提供している。
マチマチが作られる以前にも地域SNSが存在していたが、一時的に盛り上がっても長続きしなかったものも少なくない。
その一因としては、個人に依存しており、その人のモチベーションや事情で継続が困難になること、コミュニティーリーダーなどがリソースの持ち出しでやっていたため限界を超えてしまうことなどがあったのではないか。
これを解決するには、継続性を重視し事業化するのが望ましいと考えた。

ビジネスとしては、日本全国を対象として、ひとりひとりが自分の地域をスコープできるSNSを立ち上げ、運用することにより、共通基盤を利用することによるコスト削減が可能となる。
また、複数の事例を分析した成功・失敗事例など、SNS運用のノウハウを地域をまたいで共有するなどのメリットもうまれる。
各自治体で町おこしのための地域SNSを作る事例もあったが、信頼性や住民への広報という点では自治体という立ち位置は強いものの、スピード感やリソース面で進化し続けるサービスを展開することは難しいので、やはり事業体と自治体が協力しながら推進するのが望ましいと考えている。
実際、マチマチも自治体が積極的に協力してくれている地域は活発だそうだ。

〈 株式会社マチマチの武者氏 〉

マチマチSNSの特徴

事業化するにあたり、既存のSNSプラットフォームを調査してみたが、「地域SNSとしての使いやすさ」にマッチするものは見つからなかった。そこで、自分たちでSNSプラットフォームを作り始めた。

一般的なSNSでは、仮に地元情報を発信している人がいたとしても、見つけるのは難しい。
この病院の比較的空いている時間帯はいつだろう、近所で○○を売っている店はないか、などといった情報は、持っている人も欲する人も、住民やその地域に関わりのある人に限定されるという特徴を持つ。
地区情報に特化したコミュニティを作ることにより、例えば、病院も検索で簡単に見つかるような診療科目等の基本情報だけでなく、もっと細かい専門、あの先生はアトピーに詳しいとか、治療方針や人柄、院内の雰囲気のような実際にかかっている人でなければわからない情報も交換がしやすくなる。このような特徴を持ったしくみを作っている。

また、ログインユーザが使うSNS機能のみではなく、ログイン前ユーザに向けたメディアサイトという性質の違うサービスも合わせて提供している。
前者はインタラクティブ性が高くリッチなフロントエンドとAPIの組合せ、後者はSEOやCDNを意識した比較的静的な作りとなっているが、施設情報などの基礎データは共通になっている。開発者は、特徴の違うこれら2つに関わることができる。さらに、ターゲットユーザーという視点から見ると、BtoB, BtoCのどちらもあり、同じデータを使って色々な見せ方のページを作っている。
サービスに応じた色々な技術を経験したいエンジニアにとっては面白い環境だろう。

Rubyを採用した理由

Rubyを採用した理由としては、Ruby on Railsの生産性の高さや、充実したコミュニティによる質の高い情報やフィードバックのしやすさに加えて、Rubyで使われているgemやフレームワークの設計の良さもあるそうだ。

Rubyに限らず、最近の言語では公式のライブラリ以外にも、コミュニティによるライブラリの蓄積がある。しかし、様々な理由により、結局自分たちで作ってしまうこともないわけではない。
その点、Rubyの場合は、特に部品としての粒度が適度であり、抽象度が高く設計されていて、自分で作ったものではなくても柔軟に取り込みやすいと感じているそうだ。
開発の際の選定にあたっても、妥協して選ぶなどということにならず、「良い選択肢」の中から適したものを選ぶことができたのは、Rubyを使っているメリットとのことだった。

時には泥臭いこともする、技術的なおもしろさ

マチマチのサービスの特徴からして、位置情報は欠かすことのできない重要な技術である。
それだけでなく、位置情報の使い方も「位置情報をよく使う他のサービス」とは少し異なる。

一般的に、行動範囲は家の周辺を均等にではなく、通勤経路や用事先に向かう経路など、ある程度決まっている場合が多い。
直線距離で近いお店よりも、少し遠いが通勤経路にあるお店の方が都合よく、良く利用しているというケースもある。
そのため、一律半径何メートル内という括りでは使いやすいサービスにはならない。
また、行動範囲は人によって異なるため、同じ場所に住んでいるからといって、同じ情報を表示すれば良いわけでもない。
個人に最適化した情報を表示するための工夫が重要となる。

マチマチでは、大量のランドマーク情報があり、それぞれのデータにも多くの情報を持たせている。
一例として、各ランドマーク情報は緯度経度だけでなく、住所の何丁目レベルまで保持していて、より細やかに情報提供できるようにしている。
ランドマークの他に、お店や病院などの紹介記事にも位置情報をもたせているが、これらはランドマークとは異なり、点ではなく広がりを持った位置情報として扱うという工夫もしている。
このように、工夫したデータから個人に最適化した情報を抽出できるようにしたり、大量データの中から個々のユーザの知りたい情報を素早く抽出するという、難しいけれど興味深い課題がある。

様々なことを限られた時間の中でしているが、スピードだけを求めているわけではない。
インタビューの際に何度か出てきた、武者氏の言葉を借りれば「どろくさいことも徹底的にやる」のだそうだ。
例えば、メインデータベースであるPostgreSQLではPostGIS、ウィンドウ関数、LATERAL JOINなどの強力な機能を活かすために生のSQLも結構書いているし、必要に応じてマテリアライズドビュー、トリガー、部分インデックスや制約なども活用している。BigQueryでは、そのスケーラビリティーを活かすべく、複雑で重いクエリをぶん回している。
目的に応じて躊躇なく最適な手段を選べるよう、ActiveRecordで出来ることと不得意なこと、データベースエンジンの向き不向きなどをよく研究しているそうだ。

使っておもしろいものはどんどん使う

初期はHeroku上でサービスを提供していたが、サービスが育つにつれて、現状は日本国内向けサービスであるにも関わらず、海を越えた海外リージョンしか提供されないPaaSのため、APIのラウンドトリップタイムが気になってきた。
そこで再度検討の上、GAEに移行した(詳しくは 「マチマチ技術ブログの記事」を参照してほしい )。
なぜAWSにしなかったのか? の問いに対しては、「AWSは普通すぎておもしろくなかったので」という答えが返ってきた。

もっとも、現状には満足しておらず、今後アクセスが10倍になっても耐えられるインフラを作ろうとしている。
「コンテナベースのものに乗り換えたいし、インフラをもっと変えていきたい。考えた結果、GAEでなくなっているかもしれないし、マルチクラウドになっているかもしれない。これらは今後入ってくるメンバーとも一緒に考えたい」とのことなので、これらに関心がある方にとっては絶好のチャンスになるだろう。

今後取り組んでいきたいこと

今後取り組んでいきたいこととして、機械学習を取り入れることを挙げてくれた。
例えば、SNSの個人向け情報のパーソナライズをもっときめ細かくしたい。
さらに、広告を出稿する際にも、経験や勘に基づいて決めるのではなく、どこに出すとどう反応があるなどデータに基づいて決めたい。
これらに興味があってブーストしてくれるような人がいれば是非チームに入ってくれると嬉しい、とのことであった。

他にも決済の仕組みを取り入れて、町内会の会費の集金をWeb上で決済するなどのアイデアもあるようだ。

もちろん、Rubyコミュニティにも貢献していきたいとの思いがある。
昨年は平成Ruby会議のフードスポンサーをした。
今後もRubyKaigiや地域RubyKaigiのイベントのスポンサーもやってみたいし、今はまだ人数が少なくて難しいが、もっとメンバーが増えればブースも出してみたいのだそう。

マチマチの組織とコミュニティ

エンジニア職ではない人も技術に興味を持っている人ばかりだそうで、ちょっとしたデータならBigQueryを使って自身で集計してしまうし、GASでSlackに自動投稿するなどもエンジニアの手を借りることなく行っている。
「集計をお願いします」ではなく、「ここのSQL文を添削してもらえますか」のように相談されるので、エンジニアとしても答えがいがある。
他にも非エンジニアがRails Girlsに参加したり、社内で参考書を共有したりもしている。
勉強内容はIT系の技術に限ったものでもなく、今は数学ブームらしい。
マーケティングやコーチングについてのグループセッションもあり、エンジニアにとっても学びの多い場となっている。
職種の垣根などなく、みんなで議論したり教えあったりすることが頻繁にある雰囲気だそうだ。

その効果として、非エンジニアにも基本的な知識が共有されているため、「どこにエンジニアリングリソースを優先投入するか」についての意識が高く、また、「どうしてRailsをupdateするんですか?」などと聞かれて説明しなければならないというシチュエーションに陥ったりすることもないので助かっています。とのことだったが、これを聞いて羨ましいなあと思われた方も案外多いのではないだろうか。

従業員同士が仲が良いだけでなく、スタートアップならではの良さとして、経営陣との距離の近さがある。
経営陣とのコミュニケーションが密であるゆえ、会社で何が起きているかを従業員全員が知ることができる。
さらに、経営陣だけでなく、株主ともコミュニケーションがある。
特にマチマチの株主はユニークな人が多く、それぞれの専門分野のアドバイスをしてくれることもある。
社内で実施しているドリンクアップに差し入れをしてくれたり、株主自身も参加して一緒に話す中でノウハウを提供してくれたりもする。
マチマチに共感した人たちがそれぞれの立場で協力しあっていて、マチマチ大好きな人のコミュニティが形成されているようだ。

夢はマチマチ街づくり

職種を超えた社員共通の興味として「街」がある。みんなで理想の街、実現したい街について語り合うことも多い。
武者氏の言葉を引用すると、「30年後、さらに自分たちがこの世から去った後の社会についても考えたりしています。この会社を使って社会をどうしたいのかなど、お昼ご飯を食べながら話し合ったりすることもあって、みんな街のことを考えるのが大好きなんです。こういう文化に共感できる人は是非仲間になってほしい」
彼らの目指すところはSNSに留まらず、街そのものを作りたいという夢があるそうだ。
学校や保育園、お店なども作ってみたい。そして理想的な地域社会を自分たちの手で作ってみたい。
社内で話題になっている事として、企業主導でまちづくりをしている例としての「ユーカリが丘」を紹介してくれた。
いつか街を作ってみたいという思いについて詳しく聞いていくうちに、SNSといったバーチャルな世界のコミュニティだけでなく、リアルの世界にも理想的なコミュニティを作りたいのだということに気がついた。

社名に「まち」が2つも入っているぐらい街が大好きなマチマチのみなさん。このインタビュー時も街について語り出したら止まらなくなってしまうほどであった。「負けないぐらい街が好き!という人にジョインしてもらって一緒に理想的な街づくりをしたい。」のだそうで、興味のある方は是非「マチマチの会社紹介サイト」をご覧になって、SNSなどを通じて気軽にメンバーにコンタクトしてほしい。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2020年2月)のものであり、現在変更されている可能性があります。