株式会社クラッソーネ

Rubyだからできる、エンジニアゼロからのWebサービス構築

JR名古屋駅からほど近い場所に本社を構える株式会社クラッソーネ(以下クラッソーネ)は、オンラインで住宅の解体工事の一括見積もりができるサービス「くらそうね」を提供している会社だ。
同社は社内にエンジニアが誰もいないという状況の中、短期間で「くらそうね」を構築して運営している。
このサービスはRubyを採用していると聞き、代表の川口氏、エンジニアの永元氏、人事広報の宮田氏に、開発当時の状況や今後の展望についてお話を伺った。

Webサービス構築のきっかけ

「豊かな暮らしで人々を笑顔に」という経営理念を掲げている同社。「くらそうね」を構築する前は電話オペレーターを介したアナログのやりとりで工事のマッチングを提供していたのだという。どういう経緯でWebサービスを立ち上げたのだろうか。

「住宅の工事というのは費用が高額な割に満足度が低い領域です。工事を希望するお客様にとって、料金の相場が入手し辛く何を以って良い工事会社なのかが解らない、そういった情報の非対称性が大きい業界なんです。」川口氏

家を購入するといえば人生の一大イベントだ。それに付随する工事も人生で何度も経験するものではなく、周囲に伝手があるということも少ないだろう。

「今はどんな業界のサービスであっても検索すると金額と写真とクチコミがリストで出てくるという体験が当たり前になっています。しかし工事の情報となるとそういったものが一切ありません。これは同じ工事が存在しないというのが理由で、解体にしてもリフォームにしても現場ごとに工事の内容が異なるため、金額の見える化が難しいのです。そういった課題に対して、我々が提供しているサービスが「くらそうね」です。」川口氏

スマートフォンで情報を検索するのが当たり前になっている今は、住宅の工事に関する情報もまずオンラインで検索をしてしまうだろう。私たちにとって「くらそうね」のようなサービスの存在は必要不可欠だ。

〈 株式会社クラッソーネ 代表取締役 の 川口氏(取材とは別日に撮影)〉

社内エンジニアゼロからの出発

当初、社内エンジニアが0名だった同社は、開発パートナーとサービスの構築をスタートさせた。パートナー会社の協力もあり開発は順調に進む中、社内エンジニアの採用も開始したそうだ。

「私を含め当時のクルーは全員非エンジニアですので、エンジニアがどういう仕事をしていて、どういう価値基準で職場を選んで、どういったキャリアプランをもっているのかという基本的な理解がありませんでした。」川口氏

川口氏はまず、エンジニアを理解するところから始めたのだという。

「エンジニアが入りたい職場ってどういうところだろう、ということから考えました。本を読んだりエンジニアの友人に話を聞いたり、私と宮田で頭を抱えながらミーティングをしたりしたのがスタートです。」川口氏

川口氏と宮田氏はエンジニアの文化に触れるために、Rubyエンジニアのコミュニティに参加してみたのだという

「これまでエンジニアの方々と接する機会がなく心配だったのですが、Rubyのコミュニティに参加しているみなさんが温かく、とても良い印象に変わりました。」宮田氏

この他にも、エンジニアについてのブログを読んだり、川口氏自らプログラムの勉強をしたりしたそうだ。様々な情報を収集してエンジニア採用を進めている同社は、採用にあたって大切にしていることがあるのだという。

「弊社の理念「豊かな暮らしで人々を笑顔に」の「暮らし」には、会社で過ごす時間も含まれています。ですから、自分が信じるものに向かって働ける状態を大切にしています。将来どういうスキルをもったエンジニアでありたい、プロダクトをどうしていきたい、そういった信じるものがあるエンジニアの方と、お互いが信じる未来に基づいて一緒に働ける関係性を大事にしています。」川口氏

〈 株式会社クラッソーネ エンジニアの永元氏(左上)、人事広報の宮田氏(右上)、代表取締役の川口氏(下)
コロナ禍の緊急事態宣言中のためオンラインにて取材にご協力頂きました 〉

Rubyだからビジネスの本質に集中できる

こうして最初に入社したエンジニアが永元氏だ。社内にエンジニアがいなかった環境の中、「くらそうね」の開発はどのように進めてきたのだろうか。

「開発は社内エンジニアとパートナー会社さんとで分担しています。要件定義は、プロダクトマネージャー(開発当初は川口氏)がやりたいことの概念をツールで作成してくれるので、それをベースに相談しながら作っています。実現したい目的をしっかり相談してから開発することもありますが、機能によってはプログラムを書かないと説明が難しいものもありますので、そういう時はRuby on Railsで見た目をさっと作って、それを元に相談することもあります。」永元氏

素早く画面を作って出来上がりのイメージをベースに要件の相談ができるのはRuby on Railsの強みだ。

このサービスを開発する上で難しいところや気を遣ったところはどういったところだろうか

「業界に先行しているプロダクトが無く、一般人として触れる機会が少ないサービスなので、作るモノがイメージし難いというのはあります。また、このサービスは年齢層が高いユーザーも多く、トレンドを取り入れたデザインにすれば使ってくれるわけでは無い、という難しさもあります。それを踏まえてより良いソリューションにしていきたいと考えたときに、Rubyは効率よく開発できるフレームワークやライブラリが充実していますので、ビジネスの本質に集中できるのが良いところです。」永元氏

「くらそうね」は驚くことに開発パートナーの力を借りて3ヶ月という短期間で構築したのだという。限られた期間、リソースの中でシステムを構築する時に、サービスの価値に注力できるのはRubyを採用するメリットの1つであろう。

こうして無事ローンチを迎えた「くらそうね」。
このサービスをリリースしたことでサービス提供のスピードが上がったことが良かった、と川口氏は振り返る。

「従来のオペレータを介したマッチングだと、お問い合わせしたお客様とのやり取りや工事会社が確定するまでのタイムラグなど、かなり時間がかかっている部分がありました。今はオンライン上で情報を入力いただくとその場で工事会社をリストアップしますので、相場をチェックしたいだけの人に対しても、スピード感のある体験を提供できています。」川口氏

「くらそうね」のこれから

「くらそうね」の今後について伺った。

「いかにユーザーに使ってもらえるようにするか」、ここに集中することを今後も継続していきたい、と永元氏。

「物件解体の申し込みは入力項目が多いので、1人でも多くの方がストレスなく申し込みを完了できるよう、申し込みフローの最適化は今後も進めていきたいところです。今は2週間ごとにリリースするサイクルにしていますが、項目を削ったり申し込みのステップを変更したりという改修の度にリリース作業が発生しますので、これを自動化することで、より良い体験を短いサイクルで提供できるようにしたいと考えています。」永元氏

ユーザーにとっての使いやすさはもちろん、工事会社にとってもより使いやすいものにしていきたい、と川口氏。

「このサービスは工事会社様にもアプリを提供していまして、ユーザーとのメッセージのやりとりや見積もりの作成ができるようになっています。電話やFAXといった従来のやり方に慣れている方にとって、アプリの便利さだけでは業務を変えることに対する面倒臭さを解消できません。今までのやり方を変えずに済むようなインターフェースが提供できないか、それを模索している最中です。」川口氏

工事をする人に工事を楽しんでやってもらいたい、と川口氏は続ける。

「「Rubyはエンジニアにとって書き心地の良いものであってほしいっていう思いが込められていて、Rubyで開発して楽しいと感じた人たちが作ったモノで幸せになる人たちが増えていって欲しい」、とまつもとゆきひろさんが仰っていたと思いますが、当社の考えはこのRubyの理念にすごく近いと思っています。
エンジニアの方が自分で作ったプロダクトを評価してもらえたら嬉しいと思うように、工事会社もお客様に感謝される体験がすごく嬉しいんです。私たちはそこに集中できる環境を作りたいと思っています。

お客様に選んでもらった現場で、そこで誇りをもって工事をできる。「くらそうね」が工事以外のことを全て完結してくれるから工事に集中できるし、次のお客さんにも良い工事を提供したい。
工事会社の方々にそう言ってもらえるような、そういう世界観を作っていきたいと思っています。」川口氏

まつもとは以前、Rubyの発展を振り返り、3つのカギを挙げたことがある。
なにを作るか。
どう作るか。
誰とつくるか。
揺るぎない信念こそが原動力となり、プロダクトに対して自由に参加できる環境があり、ユーザーと開発者たちが同じ方向を向いていくことが大切なのだと。
取材を通して見えてきたのは、川口氏の信念、プロダクトに対する忌憚のないコミュニケーション、そして、「くらそうね」のユーザーとクラッソーネのメンバーが見つめる未来の姿だ。
同社の今後の活躍に思いをめぐらせた時、「くらそうね」が創り出す世界はRubyの辿った軌跡と重なって見えるのである。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2020年5月)のものであり、現在変更されている可能性があります。