株式会社ニューロスペース

各個人がそれぞれのベストな睡眠を知ることができ、睡眠が尊重される世の中にしたい

lee BIZ(リー・ビズ)は、株式会社ニューロスペースの「睡眠習慣デザインプログラム」です。
これは、睡眠に良い習慣を身につけることを目的としたプログラムになります。各個人の睡眠の特徴を調べ、それに合わせた睡眠に良い行動を各自で選択し、実践してもらうという企業向けのサービスです。Ruby biz グランプリ2019ではEmerging Industry賞を受賞しています。

今回は学生時代から睡眠の研究をしているというCTOの佐藤氏と、lee BIZに立ち上げ当初から関わっているエンジニアの高田氏にお話を伺いました。

〈 高田氏(左)と佐藤氏(右)〉

lee BIZとは

lee BIZは従業員の睡眠を改善する、1クール3ヶ月の企業向けプログラムです。
最初に対面やオンラインのワークショップを実施した後、睡眠計測デバイスとスマートフォンアプリを使って睡眠計測してもらい、計測結果を可視化します。
計測結果に基づくアプリからのアドバイスや、期間中に開催される研修、ワークショップなどを通じて健康や睡眠に対する見識を深めてもらい、生活習慣の行動変容を促すというものです。

というと堅苦しいイメージを持たれるかもしれませんが、睡眠の傾向から動物判定をしたり、4つのステージをクリアするなどゲーミフィケーション的な要素も取り入れています。
動物判定では、犬やウサギなど6種類の動物タイプに分類します。
動物には様々な睡眠の形があります。一例として睡眠時間では、コアラやリスは長く、馬やキリンは短い傾向があり、他の要素についても同様に各動物それぞれ特徴があります。
これらの特徴を踏まえて各動物タイプを定義し、7日間計測したデータをもとに、睡眠がどの動物タイプに近いかを判定しています。

lee BIZが他の類似サービスと違うところは、「睡眠の状態を可視化するだけでなく、睡眠に良い行動をお伝えして、生活習慣を見直して行動変容につなげてもらうところまでをひとつのサービスとして提供しているところです。」(佐藤氏)

lee BIZは2019年より開始された新しいサービスですが、ニューロスペースは2013年の設立当時より一貫して「睡眠」に関する事業を行っています。
元々は社長が一人で睡眠に関する研修やセミナーを実施していたところに、睡眠の研究をしていた佐藤氏が加わりました。国の助成金の採択も受けながら、様々なプロトタイプを作っていく中で、最終的にlee BIZという形になりました。
このように睡眠に関する知見がある強みを生かして、デバイスでの睡眠計測と、リアルの研修で蓄積してきたノウハウと合わせたサービスとして提供しています。

睡眠についてはまだわかっていないことが多いのがおもしろい

CTOの佐藤氏は睡眠の研究者なので、研究者としての睡眠の魅力を伺ってみました。
睡眠はまだわかっていないことだらけで、そこが面白いのだそうです。
"なぜ寝ないといけないのか完全にわかっていない" というところに興味を持っていて、そこにビジネスチャンスがあるのではと思っているとのこと。

「もっとも、論文は色々あるし、仮説レベルでも説明されているところはあります。
記憶の整理や、脳や体の休息など、睡眠の効能やメリットをたくさんあげることができますが、「なぜ寝るの?」に対して一言で表せる言葉がありません。なので、シンプルな答えが未だ見つかってないと言った方が良いかもしれないです。」(佐藤氏)

「睡眠は奥深くて、睡眠で困っているとよく言われるけど、内容は千差万別です。
布団に入っても寝られない、途中で起きる、朝起きれない、ちゃんと睡眠が取れているか不安、日中眠くなっちゃって…など、悩みや課題がたくさんあります。
原因もたくさんあって、眠れないという事象ひとつとっても、何が原因かわからないところに研究者としての血が騒ぎます。
いろんな事例の共通点を探し出したり、こういった事例のときはこう解決したりなど、メカニズムを自分の頭で想像して現実的なソリューションに落とし込むのが面白いです。」(佐藤氏)

睡眠を研究したり、ビジネスにするにはデータを取る必要があります。
今はウェアラブルデバイスの発達、普及により、データを取るのは以前に比べて簡単になりましたが、創業した2013年ごろは、まだウェアラブルデバイスは一般的ではありませんでした。

一方で、日本には睡眠に課題を抱えている人が5人に1人はいると言われています。
課題を抱えている人が多いにもかかわらず、これまで「データを計測して解析して価値提供する」ということをしたくても、データや技術で障壁があるために理想的にソリューションが提供できていませんでした。
しかし、今は技術の進歩でデータを取ることが容易になり、このサービスにつながりました。

「デバイスが普及して、研究も事業もやりやすくなってきていると思います」(佐藤氏)

時代も追い風に

「健康経営」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
経産省のサイトには以下のように書かれています。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
※引用:経産省のサイトより(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html)

経産省のサイトにある「企業の「健康経営」ガイドブック」の生活習慣指標として、睡眠・休養があります。
こういった指標もこのサービスの普及の追い風になっているそうです。

「最近の流れでは、経産省も、企業が従業員の健康をサポートしているかに重きをおくようになってきました。
企業は健康経営に重点的な施策を打っているかが重要になっています。
運動や食事と同じぐらいの重要度で睡眠が取り上げられていて、従業員の睡眠を見つめ直す必要に迫られている、という背景があります。
10年前だと売れていなかったと思います。」(佐藤氏)

このような背景もあり、スリープテック市場は今後期待される分野の一つのようです。
スリープテックといっても、デバイスからアプリまで色々ありますが、ニューロスペースは睡眠を計測し、データを分析・加工して、ユーザーに適切な情報を適切なタイミングで提供し、ユーザ自身がご自身の24時間をデザイン出来るようにすることをミッションとしています。

Ruby on Rails

他のRuby on Railsを使ったサービスと比較したこのサービスの特徴として、睡眠に関するアルゴリズムを実装し継続的に改善するという点があります。また、外部のエンジニアに業務委託で仕事をお願いすることも多いそうです。
このような特徴を持ったサービスのシステムにおいてRubyはどのような点で貢献できているのでしょうか。

外部エンジニアと仕事しやすい仕組みづくり

外部のエンジニアに仕事をお願いすることも多いという事情を考慮した仕組みづくりをしたそうです。
また、このサービスはAPIのインターフェースはほとんど変わらないが、内部のロジックは頻繁に変わるという特徴を持っています。

「APIのインターフェースはリクエストスペックで最低限保障し、ロジック部分は単体テストでしっかり書くようにしています。」(高田氏)

これまでの経験をもとに、最初は開発スピードが落ちたとしても、後々安心して開発できると判断し、RSpec、RuboCop、CI、Slack連携は最初に準備したそうです。
これらのツールは、途中から導入するのに比べて、最初から入れておくと、導入するための労力が少なくて済みます。
スタートアップのような、新しいサービスを始めて一緒にチームを組む人たちばかりで作る場合には特に、メンバーのコーディングスタイルがバラバラのことが多く、その点RuboCopが威力を発揮してくれたそうです。

「一からコーディング規約を作るのは大変ですが、RuboCopの設定が良くできていて、効率的に作成することができました。」(高田氏)

AMS(Active Model Serializers)

lee Bizはニューロスペースが2番目にリリースしたサービスで、最初にリリースしたサービスでは、JSONレスポンスの生成にJbuilderというgemを使ったそうです。

「これは直感的ではあるのですが、条件分岐が増えると全体像が分かりにくく、JSONオブジェクトの特定キーの値を元に別のキーの値を計算したい時に冗長になるなど都合が悪くなってきました。
そこでJSONオブジェクトをRubyのオブジェクトと同等に扱うのが理想と考え、Grapeなどを調べてみましたが、やりたいことと機能がバランスが良かったAMSを採用しました。」(高田氏)

「AMSの中でDB接続したりもしていて、あまりきれいな設計ではないと思います。ただ、弊社のサービスの場合、インターフェースは変わらないが、内部ロジックは頻繁にアップデートされるという特徴があり、APIが返す値単位で分割して外部に委託したい場合がありました。複雑ながらも見通しを良くすることができたので適切な選択だったと思います。」(高田氏)

インタビューの中で「APIはほとんど変わらずにロジックが頻繁に変わる」というフレーズが何度も出てきました。
ロジックが何度も変わっていると、APIも変えたくなる時があったりしないのだろうか?という問いに対しては、
「最初のAPIの設計には時間をかけました。」(高田氏)

スマートフォンアプリの通信料を減らすために、画面ごとに1エンドポイントで作ったそうですが、AMSを使う前提で設計していたため、最初の段階で意味のあるオブジェクトの組み合わせとして表現できるようにしたそうです。

Rubyを採用した理由

サービスを始めた当初から数人で作っていたため、メンテナンスにかかるコストを減らす必要がありました。

「その点、Ruby on RailsはWebアプリケーションフレームワークとしての歴史が長いため安心感があります。」(高田氏)

また、このサービスを開発する上で必要な様々なライブラリが揃っていて、ライブラリになかった部分についても、自分たちで再利用しやすいコードを作りやすかったそうです。

このサービスの核となる睡眠の分析・評価のアルゴリズムはRubyエンジニアではない睡眠の研究者であるCTO佐藤氏が考えています。

「ホワイトボードにばーっと書くのが好きなんです」(佐藤氏)

時には複雑なフローチャートで書かれていたりもする、そのアルゴリズムをコードに落とし込む際にRubyの柔軟性が威力を発揮したそうです。

「睡眠に関するアルゴリズムというのは最適な睡眠時間の計算、日中の眠気の予測などがあります。それらのアルゴリズムがExcelの関数で書かれていることもあって、それをほぼそのままRubyに取り込めるように工夫したりもしました」(高田氏)

他にもサービスの特徴として、睡眠時間は午前0時をまたいでいることが多く、これを考慮したコードを再利用しやすい形で作ることができたそうです。

従業員の睡眠も大事

ニューロスペースのオフィスは、東京スカイツリーにほど近く、下町っぽい雰囲気だそうです。コワーキング施設も併設していることもあって、似たようなベンチャー企業との交流も行っています。

また、「睡眠」を事業としているので、睡眠を尊重しています。
ユニークな施策としては、勤務時間内に30分の有給の仮眠時間が設けられており、就業規則にも明記されています。仮眠が認められている企業はあっても、大半が休憩(無給)として設けられているそうで、「有給の仮眠時間」というところに特徴があります。
これは、仮眠を取るのも仕事のうち、眠いまま仕事をするより、仮眠をちゃんととった方が効率が良いという考えからきているそうです。

「さすがに、外部のお客様との約束などは守らなければなりませんが、仕事の兼ね合いを考慮して、自分の裁量で寝ることができます」(佐藤氏)

仮眠用の椅子があり、そこで寝ることができるようになっていますが、自席で寝ている人もいるようです。
この制度は活用されていますか?の質問に対しては「ちょくちょくいます」という回答に続き、「日中に眠たくなるのは日頃の睡眠が足りていないことの表れかもしれません。でも、眠いままで仕事をするより何倍も良い行動です。」と笑いながら補足されました。

理想的な睡眠時間

睡眠を事業としている会社なこともあり、コーポレートサイトに社員の理想的な睡眠時間を掲載しています。これを見ると、7時間から8時間30分の間に分布していて、「長めな人が多い印象がしますが睡眠時間の短い人は採用されないのですか?」と聞いてみたところ、「そんなことはありません(笑)ここで伝えたいのは、理想的な睡眠時間は人それぞれ違うということです」(佐藤氏)

「日本人は7時間が平均とか言われたりしていますが、平均するとそうかもしれないけど、人それぞれ必要な睡眠時間が違います。7時間より短くても十分な人もいるし、多くないといけない人もいます。
睡眠時間が短い人の中には、短くても平気な人と無理して短くしている人がいます。睡眠時間が短くても平気な人は短くていい。ただし、そういう人はごく稀です。」(佐藤氏)

では、その人にとっての理想の睡眠時間が短い人と、そうではないのに睡眠時間が短い人を見分けられるのでしょうか?

「睡眠自体に正解はまだなくて、大事な指標としてあるのは、日中に眠気が来るかどうか。不適切な、自分が眠くなってほしくない時間帯に眠気が来たりするのは、睡眠が足りていない証拠です。
例えば、もしここで(インタビュー最中に)僕が寝出したら、すごく危ない。何か問題をかかえている証拠です。
眠気自体が悪いことではなく、夜9時、10時とかの寝入り前など適切な時に眠気が来て寝るのは、問題ない生理現象です。
一方、日中のお昼前とか、普通なら起きてなければならない時間に眠気が来てるのは、何かしら睡眠習慣に課題がある証拠です。
4、5時間の睡眠で、日中何も問題なく過ごしている、仮眠をしなくても大丈夫ということなら、その時間で十分だろうと思います。」(佐藤氏)

睡眠をもっと大事にする世の中に変えていきたい

自分たちは睡眠中心に物事を考えているが、世の中的にも睡眠の優先順位を変えたいのだそう。

「仕事の時間が決まっていて、朝何時に起きて、お弁当を作るとか、帰ってきて何かしないといけないとか、時間が取られていって、最後に残った時間で寝る。というのが現代の睡眠の優先順位だと思います。
しかし、人それぞれ必要な長さは違うけれども、誰もが必要な睡眠時間というものがあります。そこをまず確保して、余った時間で何ができるかを考えるようになってほしい。最終的には睡眠の優先順位をひっくり返すことを達成したいです。
必要な睡眠時間を削ってまで仕事をしているということは、何かしら身体に負債をためていると同義です。今は大丈夫でも、いつか負債を返済しないといけない時が来ます。負債をためない生活設計をするのが大事です。」(佐藤氏)

インタビュー中に何度も出てきた「人それぞれ違う」という言葉。
必要な睡眠時間も良い睡眠習慣も人それぞれ違っているので、それぞれの人に、その人にとってのベストなアドバイスをするということをとても大事にしていることが良く伝わってきました。

今後の展開についても伺ってみたが、「ウフフ・・・」とのこと。
内容がとても気になるところではありますが、今後のリリースに期待したいですね。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2020年9月)のものであり、現在変更されている可能性があります。