株式会社tsumug

それぞれの心地よい居場所で世界を埋め尽くす

Ruby bizグランプリ2020で大賞を受賞した「TiNK Desk」は、株式会社tsumugの「空室を利用したシェアオフィスサービス」である。
ソフトウェアエンジニアの池澤あやか氏よりオンラインにてお話を伺った。

TiNK DeskはTiNKシリーズの一つとして開発されたサービスであり、他にTiNK Officeというサービスもある。
これらは、空間を借りたい人と、所有する空間の借り手を必要としているオーナーを繋ぐサービスとして開発された、空間を無人管理するためのソフトウェアである。
TiNK Deskはシェアオフィスとしての利用、TiNK Officeは契約企業専用オフィスとしての利用を想定している。

空間マネージメントのプラットフォームを普及させたい

TiNK Deskのサービス紹介をする前に、TiNK Deskで使用している「SharingKeyシステム」の紹介をしたい。

tsumugは、空間マネージメントの分野で「それぞれの心地よい居場所で世界を埋め尽くす」ことを実現するために作られた会社である。
tsumugと聞くと、2017年にリリースされた、LTE通信する電子錠「コネクティッド・ロック「TiNK」シリーズ」を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。
TiNK Deskは、コネクティッド・ロックを活用したサービスとして作られたのか聞いてみたところ、もともと作りたかったのは「空間マネージメントの分野でのサービス」の方だったという答えが返ってきた。
空間マネージメントのサービスを作ることを考えた時、まず必要なのは鍵ではないか?という仮説のもとに鍵のデバイスを作った。
そのため、プロダクトが鍵からサービスへと変わっていったように見えるかもしれないが、まずコネクティッド・ロックデバイスを開発し、コネクティッド・ロックデバイスの開発で培った入退室管理・制御のノウハウを活用したサービスを作った。

tsumugは、鍵がインターネットにつながることで、空間を様々な人が使うことができるようになり、空間マネージメントが変わると考えている。

この空間マネージメントの基盤になっているのが、コネクティッド・ロックを使ったサービス向けに作られたプラットフォーム「SharingKeyシステム」である。
TiNK Desk、TiNK OfficeともにこのSharingKeyシステム上で作られている。

SharingKeyシステムとはAPIを使ってデータのやりとりをする。そのため、利用するサービス側の開発言語は問わない。
このAPIを利用して、入退室管理、アクセス権の詳細設定、空間内のセンサーと連動した機能の利用などが行える。

tsumugでは「人と空間のインターネット」のプラットフォームを目指しており、社外の人たちにもこの「SharingKeyシステム」を使ったサービスを作ってもらいたいと考えている。
TiNK DeskやTiNK Officeは「SharingKeyシステム」を使ったサービス事例の役割も兼ねている。

空きスペースを有効活用し快適なワークスペースを提供する TiNK Desk

人口減など住居の需要は減少しており、空家・空室の増加が問題となっている。
そこで、住居以外の活用方法として、自宅以外に作業スペースが欲しい人向けにシェアオフィスとして提供することを考えた。

一方、フリーランスに限らず、働き方改革でオフィス以外の場所で仕事をする人も増えてきている。
また、コロナ禍でリモートワークになったが、様々な事情で家で仕事をするのが難しく、仕事をする場所に困っている人も多い。
場所を提供したいマンション等のオーナーと、仕事をする場所がほしい人をマッチングすることによって両者の悩みを解決できると考えた。

現在、東京3拠点、福岡6拠点で運用されている。
さらに、独立行政法人都市再生機構と提携してテレワークスペースの実証実験を行うなど、今後の拠点や利用シーンの拡大に向けた取組みも行っている。

設備は「設備ユニット」としてパッケージ化されている。
ワークステーションユニット、ミーティングルームユニットなどがあり、必要な機材がユニットという単位で設定されている。
オーナー側の設備導入も利用者側の利用予約もこのユニット単位で行われ、どのユニットを何個設置するかはスペースに合わせて選択できる。
利用者にとっての「心地よいセルフワークスペース」を実現する、をコンセプトに、各ユニットの内容はtsumugが設計している。
オーナー自身で設備を検討したり揃えたりする必要はなく、利用者がPCのみ持参すれば快適に作業できる環境を導入することができる。

Ruby on Railsを使ったLINE Bot

利用者の操作はすべてLINEを使う。
事前予約することもできるし、空いていればその場で予約して使うことも可能である。
予約完了した人のみ、該当時間に限り部屋の解錠することができる。
LINEのスタンプが機能へのショートカットのような役割を持っており、決められたスタンプを送ることによって操作することも可能である。

これらはRuby on Railsを基盤としたLINE Botとして作成されている。
LINE Botとして開発されている他のサービスと比較して規模が大きく、複雑なシステムだが、ユーザビリティを損なわないような設計を心がけたそうだ。
「LINE Botとしてはとても複雑で、この規模のBotはなかなかないと思います。各機能への導線やユーザーとのコミュニケーションフローに工夫をしています。」(池澤氏)
他にも、運営側から今その部屋を使っている人全員にメッセージを送る機能もあり、利用中の人へのアナウンスもスムーズにすることができる。

Ruby on Railsへ移行

TiNK Desk APIは当初別の言語を使用していたが、Rubyに置き換えた経緯がある。
以前はサービスの機能が増えるにつれてコードが複雑になり過ぎた、CIを高速に回したいのにビルドに時間がかかり過ぎたなどの課題があった。
このまま環境を変えずに改善を図ることもできたかもしれないが、tsumugでは将来的な開発効率を考慮して、言語ごと置き換える判断を行った。
置き換える言語としてRubyを選択した理由としては、ライブラリやサポートツールが豊富なこと、日本語での情報が多いことなどを挙げてくれた。
開発用ツールとしては、Lintツール「RuboCop」や、カバレッジ測定の「CodeClimate」、コードレビュー自動化サービス「Sider」、gemの自動更新ツールである「Dependabot」などを採用している。これらは広く使われる一般的なツールなので、Rubyでの使いこなしのノウハウなども広く共有されており、容易に導入・改善することができる。
また、Railsチュートリアルをはじめ、良質な教材が多く揃っているのもRubyの強みである。他言語での開発経験があるがRuby on Railsの経験がないエンジニアにとって習得が容易だったそうだ。
また、Rubyに変えたことによりエンジニアの採用も以前より容易になった。
開発スピードも高まった。
「Rubyは技術導入しやすく便利な言語なので、とても助かっています」(池澤氏)

TiNK DeskとTiNK Officeでは共通している部分も多く、それらはライブラリ化して共有している。
さらに、他のサービスでも共通して利用可能なコードは社内SDKとして作成しており、例えば、コネクティッド・ロックを操作するデバイス用APIや TiNK Desk API との通信などが該当する。

すべてをRubyで開発するのではなく、開発するものによって最適と思われる言語を使い分けている。
今後マイクロサービス化することも検討しており、その場合は違う言語が採用される可能性もある。
今回は、複雑になりすぎていたコードを簡潔にする、豊富なツールやGem、ライブラリを活用したスピード感のある開発という点でRubyの良さを発揮できたようだ。

スクラム

tsumugでは、スクラムを取り入れており、これも開発スピード向上に貢献している。
チームに導入する前に、エンジニアだけでなく、バックオフィスや役員も含めた社内全員でスクラムマスター講習を受講した。
受講した甲斐もあり、スクラムをスムーズに取り入れることができた。
スクラムで開発すると、各自がスプリントで行うタスクが明確になる。
「このスプリントではこの機能を開発する等テーマを決めて進められるので、開発効率があがりました」(池澤氏)

他にも、esaを使って、積極的に社内ノウハウを蓄積している。
これは他の人にも役立ちそうと思ったことを書いておく。困った時に参照すると解決することも多い。
これも開発スピードの向上につながっている。

今までにないスタイルで未来を変える

tsumugは今までにないスタイルで未来を変える物づくり、サービスを作る仕組みを創るという目的を持った人たちが集まってできた会社だそうだ。
1人や1チームではできないような大きな社会課題を解決するような価値提供する、新しいサービスを紡ぎ出すことを目的としている。

そのようなtsumugの特徴として「フラットな組織」であることが挙げられる。
取締役以外は現時点では全員業務委託であり、特に役職も設けていないため上司という概念もない。(入社時に雇用形態は相談できるため、正社員としての入社も可能だそうだ。)
「プロジェクトリーダーも明確な役割をつけているわけではないが、自然にそのような振る舞いをする人が出てきて、まとめていたりもします。」(池澤氏)
巻き込み上手な人が多く、一方で巻き込まれ上手な人、ボールを拾うのが得意な人など色々なタイプの人がいて、それぞれの個性を活かしたチームづくりが自然とできているようだ。

さらに、複業をしているメンバーも多く、最近でのトレンドなど情報が素早く入ってきやすい。
「それぞれが様々なサービスに関わっていることもあり、色々な情報が交錯してとても刺激的です」(池澤氏)

※本事例に記載の内容は取材日時点(2021年1月)のものであり、現在変更されている可能性があります。