株式会社メドレー

インターネットサービスを起点に、医療情報にアクセスできる社会を目指して

東京都港区にある株式会社メドレー(以下メドレー)は、クラウド型電子カルテ「CLINICSカルテ」をはじめとした医療ヘルスケア分野のインターネットサービスを提供している会社だ。
前回の取材から3年、メドレーの今について、同社の開発を牽引する牧氏にお話を伺った。

〈 メドレーの開発を牽引する牧氏 〉

コロナ禍による社会環境の変化

新型コロナの感染拡大によって私たちの生活は一変した。多くの業界で深刻な影響が出ている中、取り分け医療業界は様々な課題に直面している。感染者の増加に伴う医療従事者の労働環境やその人材の確保の難しさのほか、感染のリスクを考え医療機関を受診すること自体が困難な事態が続いているからだ。このような状況を踏まえ政府は、診療や服薬指導をオンラインで実施できるよう制度の見直しに踏み切った。

薬剤を適正に使用するための情報の提供及び必要な薬学的知見に基づく指導のことを服薬指導という。これは従来、薬剤を薬局で販売または授与する薬剤師により対面で行うことが義務付けられてきた。2015年頃から政府は、これをオンラインでも実施できるよう慎重に検討を重ねていたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、非常時の対応として時限的・特例的に解禁したのだ。

社会の変化に合わせた新たなシステムの開発

このような状況を背景に、メドレーはオンラインで服薬指導ができるサービスを開発した。

「我々はこれまでCLINICS(クリニクス)という医療機関向けのシステムを提供していましたが、Pharms(ファームス)という薬局向けのシステムも提供することにしました。これによって、患者さんの症状によりますが、診療から服薬指導までオンラインで統一された医療体験ができるようになります。」(牧氏)

風邪で熱が高い時はベッドから起き上がることさえままならない。そういう場合は医療機関を受診すること自体が辛いこともあるだろう。最近は医薬分業のため、病院を受診したあと薬は薬局で処方してもらう流れだが、体調がすぐれない時に2つの場所を回るのは体力的にも難しい。
このサービスを利用することによって患者は、CLINICSを使ってオンライン診療に対応している医療機関を探して直接訪問をせずに診療を受けることができる。処方箋は Pharmsを使っている薬局と連携されるので、オンラインで服薬指導を受けることができ、その薬は配送するか直接薬局に取りにいくかを選択することができる。

本質に集中できるからこそ得られる開発のスピード感

Pharmsは開発開始から5ヶ月でリリースするというハイペースさで進められた。薬局をオンライン化する構想は持っていたものの、開発する時期については検討段階だったのだという。それが厚生労働省からオンラインでの服薬指導の時限的解禁を受けて一気に進んだ。短期間で開発ができたのは、CLINICSと似た機能を再利用ができたこともあるが「Rubyの開発スピードが活かせた点が大きかった」と牧氏は振り返る。

また、CLINICSをPharmsと連携するにあたって、システムの設計も大きく変更した。

「今まではCLINICSに医療機関と患者のデータがあり、それだけを守っていればよかったのですが、Pharmsを提供することによって薬局のシステムにも患者のデータが作られるようになります。この場合それぞれのシステムの中にデータが閉じた状態だと法律面、例えばプライバシーポリシーや利用規約といった視点で、相互のデータ連携の難しい局面が出てきます。そこで、データの管理方法を見直し、患者の情報を切り出して独立した基盤システムとして完結させ、CLINICSとPharmsはその基盤にリクエストを出して利用するという形に大きく作り替えました。」(牧氏)

以前の取材段階では、CLINICSはモノリシックなシステムであった。そこから考えるとこのアーキテクチャの変更は非常に大きな開発になったであろうことは容易に想像できる。その変更に対応しながらPharmsの開発を高速にできたのは「RubyとRailsを使っているから」と牧氏は語る。

「Rubyは扱いやすく、私たちにとって基礎教養みたいにあたり前に使っているものですので、課題解決のための思考を邪魔しない、本質的に取り組みたい課題に集中することができる、その効果は大きいです。」(牧氏)

言語やフレームワークによる制約がなく言語や開発環境の習得も容易であることで、社会やビジネスの変化に柔軟に対応できたということだ。

新しい技術の変化にも柔軟に対応できる

メドレーでは新しい技術も積極的に取り入れており、フロントエンドはReactなどを導入し、TypeScriptで構築している。

「そういう技術と連携する際にフロントエンドを担当するエンジニアから求められるのはインターフェース部分のデータ型です。」と牧氏。Rubyは型宣言を書かないので、フロントエンドから見るとサーバサイドから渡ってくるデータの型が解りにくい。同社はそういった課題について、GraphQLを採用したり、OpenAPIのスキーマを使ってレスポンスの型を事前に定義してそれをTypeScriptに変換してやり取りしているのだという。

「Rubyは歴史のある言語ですが、そういった最近の技術をキャッチアップできていて、Rubyもネイティブで型を取り入れようとしています。Rubyは技術の変化に前向きなところが良いと思います。」(牧氏)

Rubyは昨年末、大幅なパフォーマンス改善を行い、並列処理や静的解析など、新しい機能を追加した3.0をリリースした。社会や環境の変化に対応できるよう、Rubyは日々進化を続けている。

ライフスタイルに合わせて、経年的に健康を把握できる社会の実現に向けて

PHR(パーソナルヘルスケアレコード)という言葉をご存知だろうか。PHRは個人の健康や医療に関する情報を記録した医療データのことを指し、身近な例だとお薬手帳がこれにあたる。それ以外にも病院で管理されているカルテや母子手帳も該当するだろう。

これらのデータは各医療機関などで個別に管理され、連携する仕組みはあまり整っていない。現状、かかりつけ医と異なる病院を受診するような場合、紹介状を書いてもらうなどの方法を取らないとその病院に医療情報を連携することはできない。

PHRを中央で管理し、同意さえあれば他所の医療機関でもすぐに利用できるようにすること、これが同社の目標の1つであるという。「インターネットサービスを起点にワンストップで異なる医療機関の持つ個人の医療情報にアクセスできる体験、それを世の中に提供していきたい。」と牧氏は話す。

医療情報をシステムで取り扱うには、3省2ガイドラインという厚生労働省、経済産業省、総務省の3省が出している2つのガイドラインを遵守することが望ましいとされている。また、他の医療機関や薬局と連携するには、それぞれが使っているシステムと密に連携する必要もある。私たちの健康とプライバシーを守りつつ利便性を高めるには、クリアすべき課題は沢山ある。
「この話はメドレーだけではなかなか進めることができないので、業界全体で動かしていきたいと考えています。」と牧氏。

株式会社メドレーと業界全体の取り組みの先に、私たちが健康で安心して暮らせる社会が待っている。今後も同社の活躍に期待したい。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2021年5月)のものであり、現在変更されている可能性があります。