株式会社オープンエイト

マルチクラウドを活用した、伝えるための動画を誰もが作れるVideo BRAIN

今回は、株式会社オープンエイト CTOの石橋 尚武氏にオンラインにてお話を伺った。

株式会社オープンエイトは、「AI × SaaSであらゆる企業の情報流通戦略の成長ドライバーとなる」をコンセプトにしている、2015年に設立された会社である。
動画広告事業及び動画メディア事業で培われた動画コンテンツ制作・配信のノウハウと、AI技術を組み合わせて開発したサービスを提供している。

「オープンエイトは、以前からメディア事業やネットワーク事業をやってきており、『人の気持ちを動かす』ということをしている企業です。
人々の可処分時間が細切れになり、使える時間が奪い合いになっている中で、リッチな情報を伝えていくことが大事だと考えており、リッチコンテンツと言われている動画に着目してビジネスを行なっています。」(石橋氏)

ビジネス動画編集クラウド「Video BRAIN(ビデオブレイン)」や SNS 投稿・分析サービス「Insight BRAIN(インサイトブレイン)」、そして動画自動生成機能などのAPI提供を通じて、企業による情報発信の支援を行っている。

Video BRAIN

Video BRAINは「伝わらないをなくす」をコンセプトに作られた動画編集クラウドサービスである。
未経験者でも使いやすい操作画面で、パワーポイントを使う感覚で動画を簡単に作成することができる。
2018年提供開始し、Ruby Bizグランプリ2020 特別賞の他、2019年度グッドデザイン賞も受賞している。

「動画は情報量が多いこともあり、人の気持ちが動きやすいです。
1分間の動画は180万語相当の情報量があると言われています。
5Gをはじめ、動画コンテンツを流通させるためのプラットフォームもどんどん出てきています。
弊社のビジネスにおいても、動画広告事業が堅調に伸びていってる中で、動画広告以外にも目を向けたり、動画広告を事業として行っていく中で、動画を作れる企業とそうでない企業が明確にわかれていることに課題感を感じていました。
その課題を解決するために、誰でも動画を簡単に作れるサービスとして、Video BRAINを立ち上げました。」(石橋氏)

動画の良さについて話を伺っていたところ、事例として社内で作成している自己紹介の動画について紹介してくれた。
「リモートの時代になり、面と向かって会う機会が少なくなりました。
その中での社内の雰囲気作りや、社内の人たちがどんな人なのかを知るには、テキストより動画の方が親近感を得やすく、そのあとの仕事への入って行きやすさが断然違います。」(石橋氏)

作りやすいだけでなく、効果的な動画作りもサポートする

とはいえ、どんなに簡単に動画が作れるツールがあっても、どんな動画を作ったら良いかわからないという人も多いのではないだろうか。

オープンエイトでは、動画を作るツールの提供だけでなく、どんな動画を作るかを解決するための支援もしている。
「オープンエイトでは、『Insight BRAIN(インサイトブレイン)』という分析ツールも提供しています。
これもRubyで作られています。
自社に限らず他社のも含めたSNSを分析して、企画領域に対して手助けをするツールです。」(石橋氏)

「また、Video BRAINでは、各社の持っている素材、例えば、これまでのプレスリリースの文章やオウンドメディアに掲載しているもの、これらを投入するだけで、簡単に絵コンテを作成することができます。
どのようなストーリーの動画にすればよいか提案する機械学習のモデルもあり、動画の作成を支援しています。」(石橋氏)
Video BRAINのサイトにも資料集として、様々な業界、用途別に動画の活用に関する資料を提供していたり、サンプル動画では、Video BRAINを使用して作られた動画の事例を数多く取り揃えている。

さらに、カスタマーサクセスの体制が整っており、ここにも力を入れているのだそうだ。
「カスタマーサクセスが、何をどのように動画で活用すればいいか、どうすると活用が進むか、活用の度合いが良くなるかといったところをしっかりサポートしています。
動画は、営業の資料や、SNSへの投稿、採用活動、PR、広報等、様々なビジネスシーンで使え、各社の意向に合った提案をしながら動画活用の推進をしています。
動画はプログラムで解決する部分と、人の手で解決する部分の両軸で新しい文化を作っていくものだと考えており、その文化の醸成も支援しています」(石橋氏)

Rubyについて

Video BRAINおよびその周辺のプロダクトのバックエンドにRubyが使われている。
そもそも、Rubyは創業期から使っており、広告事業やメディア事業をRuby on Rails(以下Rails)を使いながら立ち上げた。
ネットワークの管理画面やメディアの本体のサイト、Video BRAINの各種APIなどで使っている。

Ruby採用理由

Railsを採用したのは、CTO自身が入社以前から使っていたこと、当時、新しくwebサービスを作る場合はRailsがデファクトスタンダードになっていたことが大きな理由だったそうだ。

「Railsの特徴に近いと思うんですけど、Railsってフレームワークの名前にもなっているon Railsといったところが重要だと思っています。
初期の段階でプロダクトを開発していくにあたって、できるだけRailsの規約に沿って開発することによって、余計なことを考えなくて済みます。
Rails自体が一本筋道が通っているので、『どう作るか』についてはRailsの『レールに乗りながら』開発することで解決できます。
そのため、プロダクトのコアである「何を作るか」に集中できるのが良いと感じています。
Video BRAINは、『何を作るか』というところが難しく、時間をかけたいところだったのですが、そこに集中することができました。
選択と集中という意味で、初期のリリースの段階では圧倒的なスピード感を出すことができたのがメリットでした。」(石橋氏)

個人的にRailsに興味を持ったきっかけを伺ってみたところ、以下のような答えがかえってきた。
「それまでも様々な言語を触ってきていました。たとえば、同じような言語ではPHP、Python、最後にRuby(Rails)を触ったという形になります。
当時はまだ学生だったのですが、日本語ドキュメントやコミュニティーがあるため初学者が学びやすいといったところもあり、興味を持ち始めました。
Rubyは学びやすい言語だと思います。
日本語での情報が充実しているが、かといって日本語に閉じていて英語の情報がないというわけでもなく、グローバルにも使える言語だと思っています。
その両方を兼ね備えながら、日本に軸があるのはメリットになると思っています。」(石橋氏)

Railsでマイクロサービス

Railsで作ったサービスをマイクロサービス化する際には、違う言語で作る話はよく聞くが、オープンエイトでは、Railsをマイクロサービス化しているそうだ。
「一部Sinatraを使っていたり、レンダリングのエンジン周りはブラウザのところと共通のモジュールを使っているのでNodeとExpressが動いていたりする部分もあったりしますが、各サービスごとに、Railsだと4つか5つのリポジトリに分かれている感じです。」(石橋氏)

そしてこのマイクロサービス化していることが、この後紹介する様々な面において役立っている。

Sinatraの部分については、Sinatraの推進者がいたこともあり、Sinatraの方が向いていると考えた機能をSinatraで実装してみたそうだ。
しかし、当初は単一責務のものだったが、プロダクトが大きくなっていくうちに、責務が広がったり、複雑化してきた。
さらに、運用面から見ると、中長期的に運用していくにあたってフレームワークは統一化されている方がメンテナンスコストが低い。
当初感じられたメリットが薄れてきたため、Railsに置き換えることにしたそうだ。
正当な理由があれば、チームメンバーの使いたい技術を取り入れるし、より良いものがあればそちらに変えていくこともしている。

レールに乗る、乗り続ける

Railsの「レールに乗る」ことをとても意識しているようだが、そうすることによってどんなメリットがあるのだろうか。

「後から入ってくるメンバーのキャッチアップが早いことがあげられます。
ビジネスの規模が大きくなるにつれて、エンジニアのチーム規模も大きくなっていきます。
その時に例えば、利用している人が少ない言語だと採用も難しいと思います。
Rails Way的なところがない場合、プロジェクトの設計思想についてもキャッチアップに時間がかかります。
私たちは、動画制作という今までないプロダクトを作っているので、ドメイン知識に関するキャッチアップは必要ですが、それ以外の部分に関しては、『設計みればだいたいわかるよね』というところから始まるので、ドメイン知識の習得に集中できます。
そのドメイン知識があまり必要でないところでは初日からコミットできたりするのは、RubyおよびRailsの良さかなと思っています。」(石橋氏)

レールに乗りきれない場合も出てくるのではないか、その場合はどうしているのか、という問いについては、
「もちろん出てきますが、それでもできるだけレールに沿うようにしています。
各サービスごとにわけていることもあり、レールを大きく外れるような拡張はしていません。
拡張が必要だと思った時には、すぐに自分たちで作ろうとせずに、既存のものを探してみます。
オープンソースの拡張ライブラリもいろいろ公開されているので、その中に使えるものはないか検討します。
使用頻度が多い、スター数が多いといったものを使っていくと、そんなに解決できない課題はないかなと思っています。
RubyおよびRailsのOSSのライブラリ環境というのは、しっかりしているので、そこを使わない手はないと思っています。
新しいライブラリを使う場合に限らず何でも、できるだけ意思決定までを短くしながら、まずはやってみて、だめだったらやめるという意思決定をなるべく早くすることが重要かなと思っています。」(石橋氏)

Rubyの良さ

「スピード感のある開発を事業が垂直立ち上がりしている中で進めていくためには、チームメンバーのキャッチアップ速度や、採用の難易度がそれほど高くないことが必要です。
他にも、RailsのRails Wayみたいなところだとか、その中でスケーラビリティのある設計ができるのかなどが複合的に重なっています。
Rubyのここがめちゃくちゃ良いというよりも、いろんな良さが兼ね備わっているからこそ、このビジネスの成長についていけるレベルでの早い開発速度を担保できていると感じています。
また、大規模サービスで利用している他社の事例などを調査してみて、将来的にサービスが成長しても耐えれると判断して採用しました。」(石橋氏)

運用はマルチクラウドで

Video BRAINはマルチクラウドで運用されているのだそうだ。
AWS、Azure、Oracle Cloud を中心に使っている。

オープンエイトには、SREのチームがある。
インフラのクラウド環境はこのSREを中心に作ってきたのだそうだ。
より良いものがあれば、他のクラウドへの移行も行う。
「各サービスごとのクラウドの選択についても、コストメリットや各クラウドの持っているマネージドのサービスの使い勝手などを考慮して設計し、ポータビリティを保てています。
マイクロサービス化する際にサービスの責務を適切に分けることができているからこそ、そのサービスごとに適切なクラウドを選ぶことができています。」(石橋氏)
本来なら大プロジェクトになりかねないクラウドの移行もサービスを運用しながらスピード感を持って実施できている。

マルチクラウドでのサービス運用については、2020年12月に開催されたOracle Cloud Daysで講演もしている。アーカイブ動画や講演資料も公開されているので、( https://www.oracle.com/jp/cloudday/on-demand.html?source=:ow:evp:cpo:::RC_JPMK200928P00008:OER400093260&intcmp=:ow:evp:cpo:::RC_JPMK200928P00008:OER400093260 )興味のある方はそちらも参照してほしい。

コミュニティへも還元していきたい

「今のところはビジネスを伸ばすところが主眼になっているので、コミュニティへの貢献よりもコミュニティから貢献を受ける側が大きいです。
しかし、こうやってビジネスが伸びてきているので、今後はコミュニティへの還元もやっていきたいと思っています。
いろんな貢献のしかたがあるとは思いますが、できるところから少しずつ、還元していけるしくみを会社として作っていきたいと思っています。
そうすることにより、Rubyのコミュニティに貢献しながら自分たちもメリットを享受できるという、OSSの良いサイクルが回せるとと思うので、しっかりと入っていきたいです。」(石橋氏)

※本事例に記載の内容は取材日時点(2021年7月)のものであり、現在変更されている可能性があります。