株式会社HIKKY

ギネス世界記録™にも認定されている世界最大のVRイベント バーチャルマーケット

Ruby bizグランプリ2021で大賞を受賞したバーチャルマーケットは、メタバース空間における世界最大の展示会イベントであり、日本だけでなく世界中から毎回100万人以上が訪れる。
初回が2018年8月に開催され、これまでに7回開催された。
ギネス世界記録に「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」と「バーチャルマーケット6での『1時間でTwitterに投稿されたアバターの写真の最多数』」の2つが登録されている。

このバーチャルマーケットについて株式会社HIKKY 山本允葵氏にお話を伺った。

「バーチャルマーケットの会場でお楽しみいただけることとしては、メインはお買い物です。その他、ゲーム、映画鑑賞、車の試乗、バンジージャンプなどのアトラクション体験が可能です。」(山本氏)

ショッピングでは、一般的なECサイトで購入できるようなリアルな製品とバーチャルの世界で使用する3Dモデルを販売している。
3Dモデルのメインはアバターである。
アバターとはバーチャル上での自分の代わりになるもので、自分自身に似せるだけでなく、自分が表現したい自分自身を表すことができる。

バーチャルマーケットでは、3Dの制作ができる人であれば誰でもクリエーターとして出展できる。
当初はクリエーターの作品、3Dモデルをアピールする場として開催されていた。
「何かを作るときに、締切がないとなかなかものづくりが進まないよねっていうのは、どの分野のクリエーターも感じていると思います。
みんなで同じ目標に向かって突き進むからこそ、(締切に)間に合わないーなどと言い合い、励まし合う楽しさだったりとか、SNSに途中経過をあげてみんな応援するのも楽しい活動だったりします。
これらを盛り上げたいということで、はじまったのがバーチャルマーケットです。」(山本氏)

回を重ねるごとに規模が大きくなり、3Dモデルの作品を販売するようになったり、企業も出展するようになったり、リアル製品も販売したりなど、参加者増だけでなく、会場でできる体験の幅も広がってきた。
3Dモデルの種類も増え、クリエーターが作成したアバターやアバターを装飾する洋服や髪飾り、アバターを動かすモーション、バーチャル上で使える部屋や会場のような3D空間、その空間のインテリアなどが販売されている。
リアル製品では、食品、パソコン、洋服などが販売されている。

バーチャル店舗の顧客がリアル店舗の顧客になる

企業にとって、リアル店舗は敷居が高く感じている人たちでも、バーチャル店舗では気軽に足を運んでもらいやすいというメリットもある。

大丸松坂屋百貨店の場合、季節の美味しいグルメを販売した。
実店舗では、グルメ販売はギフトの担当者が行っており、メインの顧客は年齢層が高い女性が多い。
一方、バーチャルマーケットの参加者層は20代〜30代の男性が多い。
百貨店としては、これまで接点を持ちにくい層であったため、ここをターゲットとして広告できる場としての魅力があった。

BEAMSの場合は、実店舗の販売員や英語のできるスタッフ等の44名でシフトを組み、バーチャルショップでリアルタイムに接客をし、実店舗での買い物体験をバーチャル上でも行えるようにした。
担当者から「新しい層のファンの方々に出会えて、その人たちがリアル店舗に来てくれた時にこんな嬉しいことなかった」という声をいただいたそうだ。

VR空間を使った新しい働き方

HIKKYでは、コロナ禍以前からリモートワークを取り入れており、営業、広報担当以外はほとんど出社することがない。
病気や介護、子育て等の理由で在宅勤務したい、地元に住み続けたい、海外在住など様々な理由で都内に通勤できない人もリモートであれば一緒に働くことができる。
フルリモート可能という企業は増えてきたが、HIKKYがユニークなのは、アバターを使ったり、本名ではなくハンドルネームを使ったり、会話にボイスチェンジャーを使用して働いている社員もいることだ。
さらに、一般的な企業で実施されているリモートワークとは違い、バーチャル空間内にある会議室にアバターが集合して会議するなど、バーチャル空間を積極的に活用している。
仕事してる時間はずっとオンラインで繋がっていて、いつでもテキストでも音声でも好きな形で話せる場所がある。
直接顔が見えない分、今日はちょっと体調が良くないなどと知らせたり、今昼食中などとステータスをまめに更新したりなどの工夫をしている。
その相手のステータスを見て、今食事中みたいだから終わったら質問しようか、など相手を思いやりながら仕事をしている。

リモートワークの秘訣はお互いリスペクトすること

HIKKYでリモートワークがスムーズに行えているのはなぜだろうか。
アバターを使うことにより、自分ではどうすることもできない見た目による先入観をなくすことができる。
アバター同士で会って、バーチャル空間で会議をしたり、zoomなどの会議ツールを使っていると、心と心での会話が優先されるのだそうだ。

もっとも、これらはアバターを使うだけで実現できているのではなく、「役員レベルの人がムードメーカー的な役割を担っていて、フランクな雰囲気を作っているところが大きいのではないか」(山本氏)とのことである。

「雑談やアバターも大事ですが、それよりもやはりお互いリスペクトすることを忘れないことが重要だと思います。
個々の能力を信頼して仕事しようというのが大前提にあって、誰かに仕事を依頼するときにもリスペクトして、仕上がってきたら褒めるということができています。
お互い信頼するということができているので、働いていて心理的安全性が非常に高い組織だなと感じています。」(山本氏)

Rubyについて

バーチャルマーケットでは、初回からRuby on Rails(以下Rails)を使い続けている。
イベントのバックエンドやWebサイト、ECサイトなどで使用されている他、シングルサインオンをしている部分もRailsで作られている。
「当初はイベント用のWebサイトをモノリシックなRailsで作っていましたが、2021年頃からマイクロサービス化を進めています。
サービス拡張をする際に、段階的に各機能ごとのバックエンドをrailsのAPIモードで再構築し、サービス中での仕様変更に強い仕組みに変えていっています。」(山本氏)

最初は有志が集まって始めたイベントであったこともあり、戦略的に言語を選択したというよりも、担当した人の作りやすい言語を選択したようであるが、開発に携わる人が増えた現在でもRubyを使い続けている。
「都度検討していて、新規でパフォーマンスが必要な案件では別の言語を使って開発することはあります。
現状の体制では、ノウハウが蓄積されていることもあり、Rubyでかっちり作っていくのが建設的だと判断しています。
基本的なWebのREST APIでデータベースを触るようなプロジェクトであれば、Rubyを使って開発するのが一番手堅いです。」(山本氏)

Rubyの良さ

Rubyの良いところについては、作りたいと思ったものを作りやすいところ、Railsの良いところは、初心者が危険なコードを書きにくいところをあげてくれた。
「誤って脆弱性を含むコードを書いてしまっても、rubocopやRubyMineが教えてくれます。
クロスサイトスクリプティングに対する防御もデフォルトで設定されていて、意図的に外さない限りは安全になっているところが良いですね。
SQLもActiveRecordを使うことで、ORMを使ってデータベースに安全にアクセスするようなことが自然とできるようになっています。
開発段階からそのような形で開発できるって言うのところがいいところだと思います。」(山本氏)

さらに、対話的インタプリタを用いて、そのプロジェクト内で定義したクラスやオブジェクトを試せるところも便利な点として挙げてくれた。
「irbを使って試したコードはテストにでき、それを満たす内容が実行コードというように、シームレスに、試験実装とテストのロジックとビジネスロジックが等価に記述できるっていうところは良いところですね。」(山本氏)

他にも、RuboCopが使いやすい、OmniAuthやDoorkeeperなど細かいところのサードパーティのツールが優れているなどの総合力が優れている点を挙げてくれた。

今後について

「Railsでは、AWSやHerokuを使った事例は多いですが、Google App Engine(GAE)を使った大規模なバックエンド開発をしている事例はあまり聞かないように思います。
私たちが独自に頑張っているところというと認証周りだと思うので、今後はコミュニティにも還元していきたいと思っています。」(山本氏)

※本事例に記載の内容は取材日時点(2022年1月)のものであり、現在変更されている可能性があります。