株式会社Shippio

多様性を重視したアジャイル開発をRubyと共に

Ruby bizグランプリ2022で大賞を受賞したShippioについて、Chief Product Officerの森 泰彦氏とSenior Backend Engineer の関口 亮一氏にお話を伺った。

〈 左:Chief Product Officerの森 泰彦氏、右:Senior Backend Engineer の関口 亮一氏 〉

国際物流プラットフォームShippio(シッピオ)は株式会社Shippioが提供する日本初のデジタルフォワーディングサービスである。
株式会社Shippioは「理想の物流体験を社会に実装する」をミッションに掲げ、貿易システムの提供と国際物流フォワーディング業務の提供を通じて、アナログな業務が多く残る、国際物流領域の課題解決に取り組んでいる。

フォワーダーとは

国際物流には3つのレイヤーのプレイヤーが存在する。
まず一つ目のレイヤーに輸出入を行う荷主、例えば商社やメーカーがいる。
そして二つ目のレイヤーに物流アセットを持っている物流会社、例えば船会社、通関会社、トラック会社、倉庫会社などがくる。
その間に入るのが、貨物の輸出入に伴う国際物流の手配や調整等を代行するフォワーダーである。

〈 フォワーダーの位置付け 〉

「Shippioの特徴は、従来のフォワーディング業務を行うだけでなく、貿易業務を効率化するオンラインプラットフォームと併せて提供するデジタルフォワーダーであるという点です。
Shippioを使ってフォワーディング業務を行うと、クラウドテクノロジーを使って効率的に輸出入できるのが特徴です。」(森氏)

貿易業界の課題

国際物流は手続きがとても煩雑であり、大量の手配、調整が必要となる。
貿易業界では、コミュニケーションに電話やファックスが多用され、紙のやりとりも多い。
業務フローの中で紙から紙への転記も多く、伝言ゲームになっているところも多々ある。
膨大な作業をこのような手法で行っているため、業務が煩雑になりやすく、一人当たりの作業量も多く負荷も高い。

さらに貨物は国内だけでなく海外を経由しているため、予定通りのスケジュールで運ばれなかったり、経由地が変わったりなども頻繁に起こる。
リアルタイムに情報を得るのが難しかったり、正確な情報を得られないケースも多々ある。

「日本では輸出入量が右肩上がりで増えている一方、貿易に従事する人材は増えていません。
しかも効率化が進んでいないため、この先5〜10年で貿易業務そのものが成り立たなくなる可能性もあると、我々は危機感を抱いています。
日本は島国であるため、国際物流が止まると例えばスーパーでは8割方物が並ばなくなります。
貿易は社会のインフラです。こうした貿易業務が抱える大きな課題を解決したいというのがShippioであり、後述するShippioデジタルフォワーディングであり、Any Cargoです。」(森氏)

ただでさえ多忙極まる現場において、貿易実務担当者が長年培ってきた「自分なりの効率をよくするノウハウ」を捨て、新しいサービスへ切り替えるのには勇気が要る。
Shippioではこの点において、
・自らフォワーダーとして免許を取得し、実践しながらサービスを改良していく
・サービスを顧客に導入してもらう際に、一気にリプレースするのではなく、少しずつ試して頂き、良さを実感してもらいながら導入範囲を広げていく
という、2つの戦略をとった。
このように自らもフォワーダー業務を通じてユーザーとなり、試行錯誤しながら作り上げたのが「Shippioクラウドサービス」である。

Shippioクラウドサービスの目的

Shippioはフォワーダーとしてコンテナ輸送をしているが、コンテナの多くは船で運ばれる。
コンテナは予定通り到着しないケースが多いのだそうだ。
例えば上海から東京は一週間程度かかるとされているが、実際には1〜2日のスケジュール変更が約4割は起きている。
スケジュールに変更が起きると、その後の予定を全て組み直さなければならないため、貿易実務担当者は様々なステークホルダーに電話をかけ、受け取ったファックスや書類などを紙やExcelへ転記をしたりしてスケジュール調整を行う。
これが毎日何件も起こっているのだそうだ。

「これらの業務負荷をテクノロジーの力でリプレイスし、よりビジネスの成長、業界の成長につながる作業に人のリソースを投資できるようにしたいというのが、Shippioクラウドサービスの目的です。
Shippioクラウドサービスの実績として、約50%の業務工数削減を実現しています。
様々な機能がありますが、基本的には案件の見える化とコミュニケーションや情報の一元管理が特徴となっております。」(森氏)

〈 Shippioクラウドサービスが提供している領域 〉

一度に変えようとしない

もっとも、新しいテクノロジーはすぐに受け入れられるとは限らない。
貿易業界においても、DXを推進したい経営層と、現行の業務フローを変えることへ不安を抱える現場の人たちという対立構造が存在するという。

「Shippioクラウドサービスが伸び始めたのは、コロナ渦のタイミングでした。
経営者や経営層では、漠然とDXを推進しなくてはいけないという課題感を持ち始めたタイミングでした。
リモート業務に切り替えようにも、今までの電話やファックスというツールでは業務が成り立たない。
そこで、Shippioクラウドサービスを使い始めてみたという顧客が結構いらっしゃいます。

しかし、実際にShippioクラウドサービスを使うことになる貿易実務担当者は、課題を感じていても、現状のやり方を変えることへ不安を抱きます。
それは、自分の仕事をリプレイスされることへの抵抗感、今まで慣れていたやり方を変えることへの抵抗感などです。
ただ、導入時はそうですが、そういった顧客でも6ヶ月ほど経つと、もうShippioなしでは無理ですなどと仰っていただけるんです。」(森氏)

変化に抵抗感がある方にも新しいサービスを受け入れてもらうには、どのような工夫をしているのだろうのか。

「業界全体として変化が早い業界ではありません。
ですから、唐突すぎるサービス、飛躍が大きすぎるサービスを作ってしまうと受け入れられません。
デジタルの世界に住んでいる人間からすると当たり前の一歩だとしても、業界にとっては当たり前ではない一歩の幅があり、その幅を見誤ると失敗します。
0.3歩、0.7歩、1歩というふうに相手に合わせた歩幅で、クラウドのサービスを提供することが大事だと考えております。」(森氏)

さらに、顧客企業の中で最初にShippioを使っていただいた貿易実務担当者にファンになってもらい、その方を起点に広めてもらうということも有効だったそうだ。

「実際に使っていただいた方から、『今までは夜中まで仕事をするのが当たり前でした。子どもと一緒に夕飯を食べるなんてあり得ないと思っていたけれど、Shippioを使うと仕事を早く終わらせられるようになり、今では家族一緒に夕飯を食べています。』との声をいただきました。
社内からのリアルな声を聞くと、初めは否定的、懐疑的だった人も、関心を持ってくださいます。
業務の組み方もShippioを前提で組み直しました、と仰っていただけるような事例も出てきております。
ただ時間はかかります。
ちょっと嫌だなあから始まって、徐々にファンになって、社内全体がファンになっていただくには、早くても1年はかかります。
根気がいるプロダクト開発にはなりますが、その分変わった時のインパクトが大きく、とてもやりがいがあり楽しいです。」(森氏)

ShippioクラウドサービスをSaaSとして提供するAny Cargo

荷主である顧客企業に対し、Shippioが受注した案件のフォワーディング業務に対して提供してきたShippioクラウドサービスを、他社のフォワーディング事業者が扱う案件に対してもご利用いただけるように、他社案件に開放したサービスがAny Cargoである。
Any Cargoは2022年9月よりベータ版を提供開始した。
既に10数社利用しており、2023年には正式版リリース予定だそうだ。

Rubyを選択した理由

最初のプロトタイプを作る時、PHPを選択する案があったが、最終的にはRubyになり、現在まで一貫してRubyを使用しているそうだ。

「Railsというデファクトスタンダードのフレームワークがあり、Railsを使用してWebアプリケーションを素早く作る市場が既にあったからという理由があります。
採用理由として一番大きかったのは、Rubyが試行錯誤に向いている言語だからです。
Rubyは日本語のリソースがとても豊富で、困ったことがあっても調べたり、相談しやすい点も大きかったです。
こういうふうに書くとうまく書ける、楽しく書ける、ダイナミックに書けるということに大きくフォーカスしている言語であり、情報も多いです。
Rubyに詳しいベテランエンジニアがいなくても、心地よく手触りよく開発できるのもRubyの特徴なので、スタートアップのフェーズに合っていると判断し選択しました。」(関口氏)

「貿易業界はとても複雑な業界です。
しかし、テクノロジープレイヤーは少なく、我々は図らずも先駆者となっています。
全てが手探りなので、基本間違えながらトライアンドエラーを繰り返し開発を進めています。
ですから、アジャイルに作ったものをどんどん変えられる柔軟性が大事になってきます。
Rubyである必然性はそこにあると考えています。」(森氏)

もう一つ、ユニークな理由が「多様性を重視した言語だから」だそうだ。

「Shippioの組織文化には、多様性というキーワードがとても重要で、欠かせないワードになっています。
特にプロダクト開発チームはとても多様な人材で構成されており、出身国、年齢、性別だけでなく、さまざまな背景、知識、経験等を持った人が集まっている組織です。
Rubyという言語も多様性をとても重視している言語で、海外の開発者とも活発にコミュニケーションを取れます。
パンデミック以前では、RubyKaigiという会議が開催されると多くの人が海外から日本に来ていました。
多様性を重視する組織にとって、Rubyという言語を通して多様な人材にアプローチできるのも大きいです。
組織づくりに一役も二役も大きな影響を与えているというのが、Rubyを選択したことによって得られている恩恵です。」(関口氏)

〈 左:Frontend Engineer/菊池 卓哉氏、中:Senior Backend Engineer /関口 亮一氏、右:Frontend Engineer /三上 大河氏 〉

Rubyの特徴を活かす

ShippioはほぼRubyで書かれているのだそうだ。

「今のRubyは高速で動きますし、Rubyの特性を活かして開発しているので、特にパフォーマンスは問題にならずに使えています。
トライアンドエラーを素早く行うことにも、Rubyが活きています。」(関口氏)

さらに、Rubyの特徴がサービスの実現に一役買っているようだ。

「Any Cargoでも、とてもダイナミックな使い方をしています。
顧客のExcelからデータを取り込みSaaS上で表示しますが、顧客ごとに項目やフォーマットが違い、千差万別です。
Rubyはいい意味でとても柔軟でダイナミックな言語です。
顧客毎のExcel特性に合わせて、ダイナミックに処理するような機構を入れることができます。
Rubyのトライアンドエラーのしやすさ、ダイナミックさを活かしたサービスを提供できています。」(関口氏)

ほぼRubyで作ってはいるものの、会社としてはプログラミング言語も多様性を持ちたいという思いもあり、一部Goを使っているのだそうだ。
しかしGoで作っている部分は、最初からGoを採用しているわけではない。
まずはRubyを使って顧客とトライアンドエラーを繰り返し、仕様がFixした後、Goに置き換えたのだそうだ。

「今後仮にパフォーマンスが問題になった時や、もっとSaaSのサービスが成熟して、静的な型を使いたくなった時、そこからキャッチアップしていたのでは遅いので、技術的な投資という意味でGoで作ってみたという経緯もあります。」(森氏)

今後について

個人的な思いも多少入ってしまうかもしれないのですが、と前置きした上で、以下のように話してくれた。

「会社として、まだコミュニティとの関わりを作れていません。
パンデミックも原因の一つとしてありますし、会社のステージというところもあります。
次のRubyKaigiに参加し、RubyKaigiを通してRubyの多様性を身近に感じ、それを元に会社とRubyistを繋ぐ活動をしていきたいと思っています。
他にも、パンデミックで途絶えてしまったRubyのコミュニティがいくつかあります。
Rubyを使っている企業として、ローカルコミュニティのお手伝いもさせていただけたらいいなと思っています。
Rubyのユーザーが社内にたくさんいるので、Rubyの言語やライブラリー自体にも貢献していきたいと積極的に話しているところです。」(関口氏)

※本事例に記載の内容は取材日時点(2022年12月)のものであり、現在変更されている可能性があります。