株式会社ウェブチップス

SHIRASAGIで全国の企業さんと一緒に地域ビジネスを広げていきたい

今回は、「SHIRASAGI(シラサギ)」(以下シラサギ)の開発やシラサギを使ったサービスを提供している、株式会社ウェブチップス 代表取締役 野原 直一氏にお話を伺った。

〈 野原氏と徳島県のマスコット、すだちくん 〉

シラサギは、オープンソース(以下OSS)として公開し、全国の中小企業に商材として活用し、地域のビジネスを広げてもらいたいという思いで作ったCMSである。
後にグループウェアやウェブメールの機能も追加された。
シラサギの開発にあたり、2013年9月に3人でウェブチップスを設立した。
受託案件をこなしながら会社の運転資金を稼ぐ人とシラサギの開発をする人に担当を分け、半年程度かけて開発し、2014年5月16日にオープンソースとして公開した。
また(公財)徳島県産業振興機構の「地域需要創造型等起業・創業促進事業に係る補助事業」にも採択された。

シラサギの導入先としては、主に中大規模の団体を想定しているそうだが、これには大きく2つの理由がある。
製品戦略的に、小規模ターゲットでは、WordPressをはじめ、有名なOSSが多々ある。
そのため、差別化するために中大規模団体、具体的には、官公庁、自治体、大学、病院などをターゲットとした。
また、スタートして間もないころということもあり、民間企業に比べて、売上の未払いや支払いが遅れたりするリスクが少ないというメリットもあることからも、ターゲットとしたそうである。

グループウェアを作った経緯

既に全国で自治体ホームページを作ってる会社は多数あり、どのCMSもそれなりに機能があるため、横並びで、最終的にはデザインで決まるのだそうだ。
そのため、CMSの機能を求めていっても受注に結びつくための決定打にならない。

一方、グループウェアはCMSと異なり、デザイン性よりも機能性が求められるため、機能の良し悪しで判断されやすい。
つまり、ソフトウェアが良ければ導入に繋がる。
そこで、グループウェアを作ることにしたのだそうだ。

「グループウェアというアプリケーションの中ではメッセージを利用するのですが、外部とのやり取りはメールの利用率が高いこともありウェブメールを開発しました。
お客さんがインターネットに何か情報発信したかったら、CMSを使ってホームページを作って情報発信します。
お客さんが自組織の中で情報を共有するときはグループウェアを使います。
シラサギはインターネット上の情報共有にも、イントラネット内での情報共有にも使えるため、一度の営業で二度美味しいどちらの提案も一緒にできる商材として、こういう構成になっています。
『ワンパッケージでインターネットとイントラネット両方の問題を解決することもできるし、どちらかしか興味のないお客様にも提案できる』という考え方で作ったのがグループウェアのきっかけになります。」(野原氏)

ペルソナを設定して仕様を検討

「どのユーザーにも使いやすいというのは不可能だと思うので、目指すユーザーが使いやすいことがまず一番のポイントと思って、仕様を判断しています。」(野原氏)

ペルソナとして、地方自治体を設定しているそうだ。
自治体のホームページなどでは、例えば「xx市のサイト」を複数の部署の人たちがそれぞれ担当のところを更新する。
その際、都度他部署と何時どのような更新をするか調整をしてから更新するわけではない。
100を超える部署が随時更新をしているケースもある。
お互いが参照しているページのリンク切れのチェックや、権限のない他部署のページなどを編集できないようにするなど、一部署で運用しているサイトでは必要なかった機能が必要となる。
協業ベンダーからの問い合わせや導入後の打ち合わせで新しい発見もあり、仕様を決めるためにいろいろなケースを想定しながら開発していくことが難しさでもあり、面白さでもある。

グループウェアは比較的乗り換えやすい

シラサギのグループウェアを導入検討するケースとして、大きく2つに分かれるのだそうだ。
新規にグループウェアを導入するケースと、既にグループウェアを利用しているが、コスト削減のためにシラサギに乗り換えるケースだ。

グループウェアはどれも似ているので移行がしやすく、データ移行もよく利用されているスケジュール、施設予約以外はあまりないという特徴があるのだそうだ。
これまで使っていたグループウェアが様々な機能を持っていても、全て使いこなしているわけではなく、一部の機能のみ利用している企業も多い。
この場合は、使いたい機能が揃っていればOSSで十分となるケースもある。
その他にもシラサギに乗り換えたい理由として、SAML認証を実装していることや、OSSなので自由にカスタマイズできることもあげられる。

シラサギの特徴的な機能

シラサギ LGWAN-ASPサービス

「シラサギ LGWAN-ASPサービス」とは、自治体が自治体向けのセキュアなネットワーク経由でホームページを公開したり、グループウェアを利用できるシステムである。
LGWAN-ASPのLGWANは、「Local Government Wide Area Network」の頭文字を取ったもので、「エルジーワン」と読む。
このサービスを使うと、行政ネットワークから直接更新作業などが可能であるため、自治体職員にとっては仮想デスクトップを起動してインターネットに接続する手間が省け、利便性が高くなるのだそうだ。
現在は、サニタイザーという無害化ソフトウェアを利用することで、インターネット側からファイルのアップロードもできるようになっており、自治体職員のテレワークにも対応している。

スマート窓口申請

徳島県美馬市と協力して作成したCMSの機能であり、近いうちにOSSとしても公開を予定している。
これまでは、何かを申請する際に必要な手続きについて、PDFをダウンロードして印刷し、必要事項を記入して捺印し、役所の窓口に持参する必要があった。
このスマート窓口申請では、質問にイエス、ノーで回答していくと、最後に必要な手続きを教えてくれる。
さらに、オンライン上で申請が可能であったり、あらかじめ必要な情報を入力してから窓口に行くと、記入済みの必要書類が印刷され、それに捺印するだけで申請することもできる。

申請者の手間が省かれるだけでなく、自治体側も紙の書類から電子データを作成する手間が省ける。
電子データを作成する際に、手書きの文字が読みづらい時、申請者に電話をかけて確認するケースもある。
オンライン上で申請者が直接入力した内容を利用できるようになるため、このような作業が不要となる。

現状ではオンライン申請に対応している申請書は少ないが、今後各課と調整しながら増やしていく予定である。
また、更なる利便性の向上のため、今年度はマイナンバーカードによる公的認証にも対応する予定である。

「スマート窓口申請を利用することにより、これまでは紙に縛られていた自治体さんも、シラサギを使って低コストでDX運用ができます。」(野原氏)

〈 スマート窓口申請画面イメージ 〉
庶務事務機能

庶務事務機能はグループウェアの機能である。
時間外申請、休日申請、有休管理などができ、某自治体に導入した後にブラッシュアップし、OSSの標準機能としてリリースされた。

時間外の場合は、割増手当の自動計算を行うことで、時間外申請とその実績がきちんと入力されていれば、給与システムに必要な集計結果を提供することができる。
休日、有休の場合は、時間外との相殺、特別休暇の取得などにも対応している。
必要であれば、自社に合わせてカスタマイズをすれば、かゆいところに手が届く庶務管理及び勤怠管理が実現可能となっている。

〈 庶務事務機能の時間外集計画面イメージ 〉

新機能の追加時に考慮していること

新機能を追加する際、どのような基準でどの機能を実装するか決めているのか、伺ってみた。

「オープンソースは無料です。
無料なのに価値を感じてもらえず、使われないのが最悪だと思っています。
使ってもらい、何らかのフィードバックがあって、その中で利用者のニーズを知らないと、ソフトウェアとしては迷走してしまうと思っています。」(野原氏)

フィードバックから実装した例をひとつ紹介してくれた。

「例えば最近では、ユーザーインターフェースが少し使いにくいというコメントをもらっていました。
シラサギは、9年前に開発した時、当時では先進的な、まだ話が出始めたばかりのレスポンシブウェブデザインで作りました。
管理画面もスマートフォンで管理できます。
最初はUIを頑張って作りましたが、この9年間ほとんどUI改善していなかったので、逆に周りのユーザーのニーズが追い越してしまっていました。
そこで、去年ぐらいからユーザーインターフェース の改善も始めました。
やはりお客さんが言ってくれないと自分で気づくのはなかなか難しいです。
そういうのはすごくありがたいですし、実際に使ってる人のフィードバックがあってこそのオープンソースだと思ってます。」(野原氏)

OSSの場合、いろいろなユーザーがいるため、ある仕様がすべてのユーザーに最善とは限らない。
あるユーザーにとっては改悪に感じることがあるかもしれない。
そこに対する配慮として、以下のように話してくれた。

「設定で切り替えできるようにしたり、以前の名残も残したUIにするなど、できるだけ今まで使ってるユーザーに影響がないように考えて作ってます。
新しい機能を作るときに、既存の機能を作り直してしまう方が良い場合はそうしますし、 既存のままで使いたいと思っているユーザーがいそうな機能のときは、あえて別実装として作ります。」(野原氏)

展示会に出展して仲間を増やす

OSC(オープンソースカンファレンス)をはじめ、展示会にも出展しているそうだ。
企業が自社製品を売るために展示会に出展することはよくある。
OSSを展示会に出展し、ユーザーが増えてもウェブチップスの収益にはならない。
それでも出展するのはなぜだろうか。

〈 OSC出展の様子 〉

「1円も払ってませんが、シラサギ使わせてもらっています。と言って、このタイミングに聞けることは全部聞こうと質問に来る人は結構います。」(野原氏)

「使われないオープンソースほど無価値なものはないと思っています。
とにかくいろんな人に知ってもらいたい。
知った上で使わないのであれば仕方ないですが、知ってもらって、使えるって判断をしてくれたんだったら、ぜひ一緒にやりましょうっていうスタンスです。
いろいろな会社さんにシラサギの存在を知らせたいという目的で参加させてもらっています。」(野原氏)

これではOSSのユーザーを広げるには良いことだが、収益企業としてはメリットにならないのではと心配になるが、出展するとビジネスに繋がることも結構あるそうである。

「見に来られている方は意識の高い技術者の方が多いです。
仕事の中で技術的なことを学ぶだけでなく、OSCをはじめ、いろいろなところに行って自分の知らない知識を得ようという方が情報収集に来ています。」(野原氏)

そのような方の目に留まり、一緒にシラサギを使った提案をすることになるなど、ビジネスに繋がることもよくあるそうだ。

「OSCで知り合ってビジネスに発展した案件数を考慮すると、出展した価値はありました。」(野原氏)

〈 OSCセミナーの様子 〉

地域ビジネス活性化にシラサギを活用してほしい

地方の企業にもスキルの高い技術者や、開発力のある会社も多いのだそうだ。
しかし、自分たちで一からパッケージを作るほどの体力がある企業は少ない。
そのような会社に、シラサギを使ってほしいそうだ。

「地域のいろんな中小企業さんは、能力もあって開発力もあるのですが、お客さんに提案する際に、パッケージが無いという一点だけで、都会の大きな会社さんが自社パッケージを持ってきて営業されると選択肢から外れてしまうことがあります。
そういうのを少しでもなくすことができればと思ったのです。
シラサギはOSSなので、自社のパッケージとしてシラサギをフォークして、なんとかシステムみたいな名前にして提案してくれてもいいわけです。
そういうふうに活用することで、少しでも地域の中小企業さんに商材という名の武器として活用してもらいたいという思いで、シラサギを作りました。」(野原氏)

シラサギはOSSのパッケージで、CMSの機能もグループウェアの機能も最低限の機能は揃っている。
このデフォルトのシラサギを顧客に見せながら要望を聞き出すなど、提案活動に有効活用してほしいのだそうだ。
もちろん、獲得した案件でもシラサギは使用できるため、フルスクラッチで作成するよりも費用も時間も削減でき、顧客に合ったカスタマイズに専念できるというメリットもある。
だからといって、必ずしもカスタマイズして使う必要はないそうである。

「実際に岐阜県のSIerさんが作っているシステムのグループウェア機能は、シラサギをそのまま使っています。
他にも徳島県内で自社のパッケージ名に変えて使っているケースもあります。」(野原氏)

「カスタマイズを弊社でするだけでなく、協業する会社のエンジニアさんに来てもらって一緒に開発したりもします。
今はコロナ禍なのでオンラインが多いのですが、できるだけ一緒にやろうとしてくれてるエンジニアさんを巻き込む形でシラサギの輪に入ってもらうように心がけています。」(野原氏)

コロナ禍前は全国各地の企業のエンジニアが来社していたそうである。

「コロナ禍でほぼゼロになってしまいました。
オンラインでやり取りしていても、ちょっと相手の肌感が分かりにくいという苦しみみたいなのがあります。
やっぱりコミュニケーションって大切だな、と思うことは多々あります。」(野原氏)

今後もシラサギを活用して、一緒にビジネスをしていけるような輪を広げていきたいとのことである。

徳島のRubyコミュニティ

最後に地域でのRubyコミュニティについて話してくれた。
野原氏は徳島県のRubyコミュニティ Tokushima.rb の主催メンバーの一人だったそうである。

「今はコロナ禍で活動を休止しているのですが、以前は毎月最後の日曜日に開催していました。
コロナ禍が落ち着いたら復活したいですね。
シラサギができたのも、シラサギが一定のスパンで改善され続けているのも、開発効率の良いRuby言語のプロダクトだからだと思っています。
私も以前島根県松江市に2年ほど住んでいましたが、島根から遠く離れた徳島の地で、Rubyの良さを少しでも発信できればと思います。」(野原氏)

※本事例に記載の内容は取材日時点(2023年4月)のものであり、現在変更されている可能性があります。