レンティオ株式会社

「捨てる」を減らす。家電のサブスク・レンタルサービスを創出

家電のサブスク・レンタルサービス「レンティオ」のサービス開発背景について、レンティオ株式会社 CTO 神谷 祐介 氏にお話を伺った。

〈 レンティオ株式会社 CTO 神谷 祐介 氏 (@kmy4_) / X 〉

家電購入のミスマッチをなくしたい

「最新の家電製品を買ったけれど、実際に触ってみると機能が多すぎて使いこなせなかった」「実際に使ってみたら自分のニーズやライフスタイルにマッチせず、結局すぐに手放してしまった」家電製品の購入に関して、このような体験を持つ人も少なくないはず。家電購入のミスマッチは、製品を作り出して売り出すメーカー側にも「消費者から製品を正しく評価してもらえない」といったビジネス上の課題につながる。

そこで、「購入時のミスマッチをなくす」「捨てるを減らす」という発想から、ユーザーとメーカーの間に立ち、心惹かれた最新家電を実際に購入する前にまずはお試しレンタルできるプラットフォームを構築・提供している企業がある。

それが、レンティオ株式会社だ。

「買わずに、まずは試す」というビジネスモデルを生み出した理由

レンティオ

レンティオが提供している「家電お試しレンタル」のビジネスモデルは、購入のミスマッチを減らし、その結果として廃棄物を減らすことを意図している。「次々に新製品が出る美容家電など、気になるアイテムは発売後すぐにお試しできる」「イベント時の記念撮影用のカメラなど、自分での購入ハードルが高い上位モデルをレンタル」といったユーザーメリットも。そして、企業側には「製品利用へのハードルを下げる」「『製品認知・興味止まり』を『利用経験あり』のマーケティングファネルに引き上げ、さらに『購入者』に転換できる」という大きなメリットもある。

このような「買わずに、まずは試す」という新たなビジネスモデルを新たに開発しようと考えた背景を、まずは神谷氏に尋ねた。

「レンティオの共同創業者である三輪と私は、新卒で楽天株式会社に入社し、eコマース業界に携わってきました。その中でも特に家電のeコマースは価格競争が激しく、最も安価な商品をWeb上で探し出して買うという購買行動が一般的ですが、実際のところユーザーにとっては購入してみないとわからない問題点も多く、高価な商品ほどそのリスクが高まることに課題を見出しました。『家電製品を購入する前に、何かしっかりと試せる方法はないだろうか?』と考えた結果、『家電製品のレンタル』というアイデアに辿り着いたのです。

創業を決意した当時、家電のレンタルサービスは既に世の中に存在していたものの、FAXでの注文や、電話での日程調整など、エンドユーザーにとって使い勝手の悪いサービスが多い、といった印象を持っていました。

そこで私たちは、自らのシステム開発スキルを活かし、Web上で予約・日程確認が完結するスマートなレンタルサービスを提供しよう、と決意しました。この取り組みにより、家電レンタル市場をより広げることができるのではないか、といった想いから、サービス開発に取り組み始めました」

わずか2名で創業。限られた開発リソースの中でスピーディーに理想のUI・UXを実現したかった

こうして、2015年に都内で創業したレンティオ。創業から9年が経った現在では、サービス成長に伴って約150名の社員が在籍しているが、ビジネスの立ち上げ当時は、三輪氏と神谷氏の二人でのスタートだったという。

限られた開発リソースの中で、スピード感を持って理想のUI・UXを実現させたいと考えた神谷氏。そこで採用した技術が、Ruby on Railsだった。

「当時、エンドユーザーの『予約日程を決めて、レンタルを申し込む』というアクションに関して、出来合いのカートシステムを使う選択肢はまったくなく、内製するしかありませんでした。スピード感を持って、私たちが実現したいシステムを構築するにはどうしたらいいか、と考えた結果、Ruby on Railsを活用するのがベストな選択肢だと判断しました」

レンティオ サイト内 レンタル申し込み画面の一例

レンティオのサイト内で、商品レンタル詳細ページにアクセスすると「お届け日を選ぶ」というカレンダーが表示される。エンドユーザーはこのカレンダー上で在庫数を参照し、レンタル予約が可能な日程を選んで申し込みができる。そして、レンタルプランに関しては「月額制プラン」または「ワンタイムプラン」を選択して申し込みができるようになっている。

このように、通常の物販eコマースには見られない複雑な要件をはじめ、サイトの裏側で走っている管理画面もほぼ全てRailsで動いている、と神谷氏。Ruby on Railsのオープンソースeコマースフレームワーク「Solidus」をベースに開発を進めていった、と語る。

Ruby on Railsの活用で、やりたいことを迅速に実現

「Ruby on Railsを活用したからこそ、やりたいことをスピーディーかつスムーズに実装できた」と語る神谷氏。新規開発フェーズに限らず、サービス運用フェーズにおいてUI・UX改善に取り組んでいくうえでも、Ruby on Railsならではの利点を実感しているという。

「私たちは、エンドユーザーの体験を重視しています。サイトが使いやすいのはもちろんですが、レンタルサービスとは、意外とオフラインでの体験が大部分を担っています。具体的に言うと、商品を受け取って、利用して、返送するところまでが、一連のユーザー体験です。この『返却』とは、 物販eコマースではまず発生しないフローであるため、『いかに迷わずにスムーズにサービスを利用していただけるか』というUXを実現することが重要です。

よって、お客様からフィードバックを受けてサービス改善を繰り返していく取り組みも、非常に重視しています。

やはりRuby on Railsを技術スタックに採用したことで、何か疑問点が生じても少し調べれば大体先駆者がいて、ドキュメントなどさまざまな情報を見つけ出すことができます。そして、ライブラリ自体が非常に活発に開発されてはいるので、探せば何かしら提供されているというのは、非常に魅力的な環境だと感じています。また、Rubyはプログラミング言語として、書き心地も非常に優れていると思っています。そういった背景もあり、スピーディーに要件を実現できるという点も魅力です」

Rubyの整った地盤は、長く育てていきたいシステムにおすすめ

レンティオのサービス開発・運用におけるRuby採用効果を語ってくれた神谷氏。今後、新規でサービスやプロダクト開発に臨むエンジニアに向けて「Rubyをおすすめしたいポイント」を尋ねた。

「新たな技術に魅力を感じ、使ってみたいという気持ちも出てくるのですが、その技術のエコシステムがしっかりと回っているか、ビジネスを長く続けていく上で技術スタックが今後もメンテナンスされていくかといったことを判断するのが重要です。何かしらの問題で、技術スタックを途中で変更しなければならなくなると、後々大変なことになるからです。長期間育てていくシステムであれば、Rubyのようなしっかりと地盤の整った技術を選択することは、かなり合理的な選択だと私は思います」

エンジニアの中には、ビジネスサイドのメンバーとのコミュニケーションに苦慮している人も少なくない。それは、互いにキャリアのバックグラウンドが異なるためだ。システム開発過程におけるコミュニケーションに悩むエンジニアに向けたアドバイスもお聞きした。

「それは必ずしも一方向に限った話でなく、実は逆のケースも起こり得るのではないでしょうか。エンジニアが困っているだけでなく、ビジネスサイドも『うまくいかない』と感じることがあると思います。そこで最近、私たちが意識しているのは『やりたいことをしっかりと言語化すること』です。具体的には『なぜ、それをやりたいのか』『どのような課題があるのか』『課題に対して、どのような方針でアプローチしようとしているのか』という3つのポイントを明確にします。課題解決のために、どのような手段を取ろうとしているかも含めて説明します。昨今、リモートワークが増え、口頭だけでなくテキストコミュニケーションも増えています。そのようなビジネス環境の中で、課題の根本をしっかりと言語化することが非常に大事だと思います」

レンタルという消費行動をもっと当たり前にしたい

レンティオは今後のさらなる事業成長を通じて、どんな未来の社会を描いているのだろうか。同社が引き続き掲げていきたいミッションや、事業拡大の方向性について聞いた。

「直近で、新たなプロダクトをリリースしました。『Rentify』という、レンタルあるいはサブスクリプションサービス構築を可能にするプラットフォームの提供です」

「私たちは、将来的にはレンタルが当たり前の世界を実現したいと考えています。そのためには、私たちのノウハウをより広く提供する必要があると考えました。

私たちが創業した当時、レンタルサービスを構築しようとしても、既存システムを活用する選択肢が全くありませんでしたが、2024年の現在もなお、市場に十分な選択肢があるとはいえない状況です。

これまで、数多くの家電メーカーとやり取りしてきましたが、彼らは『自社でレンタルサービスやサブスクリプションサービスを立ち上げたい』と考えている一方で、必要なノウハウやシステムがなく、計画通りに進めることができないという問題に直面しています。物流上の課題や、不正注文に関する課題など、さまざまなハードルにつまずき、サービスをスケールする前に断念するケースを何度も目撃してきました。

そういった企業に対して提供できる答えとして、Rentifyというサービスの提供を開始しました」

この「Rentify」により、企業は自社のサイト内でサブスクリプションやレンタルサービスを自らのドメインで構築し、運用することが可能になる。これにより、従来の「購入するか、しないか」の単純な選択だけでなく、新たに「お試し利用」や「サブスクリプションを通じた利用」といった多様な選択肢を消費者に提供できるようになる。

また、すでにレンタル事業を展開している企業にとっても、既存のサービスをデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じてアップデートし、在庫管理や販売促進活動を効率化することで、事業の拡大を図ることができる大きな機会を提供するものだ。

「レンタルという消費行動をもっと当たり前にしたい」という想いから始まった、レンティオの取り組み。「どんなものでも、買わずにためせるる」という消費行動が浸透すれば、大量生産、大量消費、大量廃棄のサイクルの抑制にも繋がだろう。レンティオの挑戦は、これからも続いていく。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2024年4月)のものであり、現在変更されている可能性があります。