株式会社KabuK Style

旅をもっと日常に、人を豊かに。旅のサブスク®「HafH(ハフ)」の挑戦

旅のサブスク®「HafH(ハフ)」のサービス開発背景について、株式会社KabuK Style COO兼CTO 後藤 秀宣 氏と、エンジニアリングマネージャー 勢田 圭剛 氏にお話を伺った。

〈 株式会社KabuK Style COO兼CTO 後藤 秀宣 氏 〉
〈 株式会社KabuK Style エンジニアリングマネージャー 勢田 圭剛 氏 〉

新たな旅のあり方を提案

旅のサブスク®「HafH(ハフ)」とは

株式会社KabuK Styleは、旅のサブスク®「HafH(ハフ)」を提供するトラベルフィンテックカンパニーであり、新たな旅のあり方を提案している。2019年4月にサービスを開始し、2023年7月末時点で国内外30カ国、2,000以上の宿泊施設が利用可能だ。

「HafH」は、ユーザーが一定額を毎月積み立てることで、旅行予約時の価格変動に左右されることなく旅を楽しめる点が最大の特徴だ。積み立てたコインを使ってホテルの予約を行い、必要なコイン数は部屋ごとに異なるものの、平日や土日祝日に関わらず一定だ。また、使わない月にはコインを積み立てることができ、月の途中で追加購入も可能だという。

そして2023年5月11日より、JAL航空券の即時購入が可能な航空サブスクリプションサービスも開始。旅行におけるさまざまな意思決定がよりスムーズかつ容易になった。

HafHが他の旅行予約サービスと異なる点は、大きく2つある。まず、価格が変動することが一般的なホテルや航空券を、比較的価格変動の少ない状態で提供している点だ。旅行業界がダイナミックプライシングに向かう中で、HafHは価格の変動を抑えた独自のアルゴリズムを導入している。

そして、ユーザーがストレスなく短時間で旅行予約を完了できるよう、UIには最小限の情報とオプションのみを掲載。これにより、ホテル予約時の迷いを減らし、少ないクリック数で予約を完了させることが可能だ。

〈 出典:第9回 Ruby biz グランプリ 受賞企業資料より
サービス開発の背景

旅行のサブスクリプションサービスという新たなビジネスモデルを開発した背景には、どのような想いがあったのだろうか。KabuK Style COO兼CTO 後藤 秀宣 氏に、サービス誕生の背景を尋ねた。

後藤氏「私自身がKabuK Styleに参画したタイミングは創業時からではなく2021年11月頃ですが、次のように理解しています。

旅は人を豊かにし、さまざまな価値観や出会いに繋がります。旅をもっと日常にしたいという思いが、サービス開発の根底にあります。旅を日常にするためには、世界中に滞在可能な拠点が存在する必要があります。予約の度に価格を気にすることなく、一定額を毎月払えば、いつでも、どこにでも行けるという世界観を当初から描いていました。

この考えには、CEOである砂田の金融業界でのバックグラウンドも影響しています。砂田は子供時代から、価格が変動することに疑問を抱いていたそうです。例えばホテルのような同じ資産やサービスが、日によって全く異なる価格になるのは、消費者にとっては疑問に感じられます。この疑問を解消することがもう一つの根本的な世界観です。この考え方を軸に、創業時から現在に至るまで事業を進めています」

サービスを支えるRuby on Rails

「HafH」のビジネスモデルを迅速に実現するために、KabuK Styleでは技術スタックとしてRuby on Railsを採用している。同社が開発した技術のうち、どの部分を主に支えているのかを尋ねた。

後藤氏「メインのシステムはRuby on Railsで、ほとんどの部分を構築しています。我々のサービス『HafH』は一般消費者向けのサービスですので、会員登録や月額課金といった基本的なサービスの仕掛けはRubyで整えています。バックエンドの登録、課金、決済などもすべてRubyで構築しています。

なお、旅行予約の部分では、ホテルや航空会社との連携が必要です。これもRuby on Railsで構築しており、ホテル予約を集約する外部サービスのAPIを呼び出す形で連携しています。国内外で複数のプレイヤーとインテグレーションを行っており、現在ホテル関連では5つのインテグレーション、飛行機はJALとのみ繋がっており、これもAPIを通じて連携しています。

そして価格の安定化については、仕入れ価格が変動するホテルの料金を消費者に安定した価格で提供するアルゴリズムを構築しています。このアルゴリズムは、大量のデータを用いた機械学習を活用しており、データ処理と親和性の高いPythonやSQLを使用しています。」

『HafH』のサービス構築・運営を包括的に支えているRuby on Railsだが、その採用経緯についてもお聞きした。

後藤氏「弊社ではサービス初期からRubyを採用していて、私が参画した以降も他言語に変えるような判断はしていません。サービス運営上、変化が求められることが多い中で、Ruby on Railsは素直にフレームワークに従って作れば、余分なことを考える必要がないからです。Ruby on Railsを利用することで、ビジネスそのものの構築や、変化への対応に、より多くの時間を割くことができています」

同社のエンジニアリングマネージャーである勢田氏にも、Rubyの魅力について尋ねた。

勢田氏「私は、コミュニティの強さに魅力を非常に感じています。さまざまな言語やライブラリにそれぞれの特色や盛り上がりがありますが、特にRuby on Railsのコミュニティには勢いと一体感を感じます。

創業時、そのビジョンに共感したエンジニアが集まり、Ruby on Railsを選択したそうです。そのうち半分以上のエンジニアは今でもメンバーとして引き続き在籍していて、同じ想いの下で仕事を続けています。

さらに、グローバルでエンジニアを採用した場合にも、RubyやRailsを用いた実装や設計のアプローチには共通のものが多々ありました。国内だけではなく、グローバルでも一貫したナレッジを蓄積されているコミュニティのパワーを強く感じます」

〈 30カ国以上で利用できる旅のサブスク®をグローバルチームで開発 〉

2023年 Ruby biz グランプリ特別賞を受賞

『HafH』は、2023年 Ruby biz グランプリ特別賞を受賞した。受賞に関して率直にCTO・エンジニアとしての想いについてもお聞きした。

後藤氏「新しいビジネスをすばやく実装し、それがビジネスとして回っているという点は、RubyとRuby on Railsのおかげで実現できたと思っています。我々のような新しいビジネスモデルに挑戦する企業にとって、Ruby on Railsを使って成功した事例として見てもらえることに、意味があると思います。エンジニアリングや経営の人たちに『HafH』の事例が伝わり、参考になれば嬉しいです」

勢田氏「受賞は率直に嬉しかったです。評価をいただけたことに本当に感謝しています。また、授賞式も素晴らしい場で、まつもとゆきひろさんや松江市や島根県の方々に『HafH』のサービスの独自性を認めていただき、興味を持っていただけました。『こういうサービスがあるんだね』『Ruby on Railsをこういう形で使っているんだね』という声も、多く寄せられました。私たちの取り組みが、コミュニティを通じて広がっていくことで、新しいチャレンジャーがRuby on Railsを使ってさらに素晴らしいものを作っていく流れに貢献できると感じています。それが非常に嬉しかったです」

〈 2023年 Ruby biz グランプリ 表彰式の一場面 〉

新たなサービスやプロダクト開発でエンジニアが意識すべきポイント

新たなサービスやプロダクト開発において、エンジニアとビジネスサイドの連携は欠かせない。しかし、バックグラウンドの異なる職種間でのコミュニケーションに難しさを感じている方もいるのではないだろうか。開発過程でビジネスサイドとうまく連携・意思疎通できなくて困っているエンジニアに対してのアドバイスをお聞きした。

後藤氏「例えば、弊社では私が技術の責任者でありつつCOOも務めていることが象徴的だと言えるのではないでしょうか。つまり、技術の責任者でありながらビジネス面も見ているということです。

エンジニアがエンジニアリングだけに閉じこもってしまうと、ビジネスの話が通じなくなります。しかし、ビジネスの戦略や構造、現在の状況を理解し、必要な行動がわかっていれば、普通に話は通じると思います。そしてエンジニアリングのトップである私がこのような考えを元に行動することで、他のエンジニアもこれについてきます。

エンジニアリング側がビジネスに歩み寄ることが、重要だと思いますし、より有意義なソフトウェア開発につながることでもあると思います」

サービスの提供に留まらず、価格に対する新しい考え方を社会に提案したい

『HafH』は、Ruby on Railsを活用することで、実現したいサービスを迅速に形にすることができた。その結果として得られたビジネスの成果や、今後の展望についても尋ねたところ、後藤氏は次のように語ってくれた。

後藤氏「事業を5年ほど運営してきましたが、Ruby on Railsを使って素早くシステムを作ることができていなければ、私たちのビジネスは成り立ちません。価格の設定や、仕入れの処理など、人手ではできないことをシステムが支えています。このような仕組みを構築できたことにより、ビジネスが回る段階にまで成長しました。

今後の事業展開においては、単にサービスを提供するだけでなく、価格に対する新しい考え方を社会に提案したいと考えています。現在、多くのホテルはダイナミックプライシングを採用していますが、これが必ずしも最良の方法とは限りません。価格変動が激しければ、売上が大きく変動し、従業員のシフト調整も難しくなり、安定した雇用が難しくなるなどの課題も想定されます。

私たちはまだ小さい企業ですが、この課題に取り組むことで、ホテル経営に安定をもたらし、消費者にとっても利用しやすい世界観を提供したいと考えています。

ユーザーがこの新しい世界観を認知し、それを受け入れることで、ホテル側もその価値を理解し始めています。ユーザー側、ホテル側の双方に対する影響を拡大していくための最初のステップが整ったと考えています。

サプライヤー側の理解を得ながら、我々のプラットフォーム『HafH』を通じて新しい価値観を広めていくことが目標です」

※本事例に記載の内容は取材日時点(2024年5月)のものであり、現在変更されている可能性があります。