株式会社タイミー

サービスの急成長を技術面で支えてきたRuby on Rails

隙間時間を活かしてすぐに働けるスポットワーク(アルバイト)のマッチングサービス「タイミー」。「最短1時間から当日働ける」「今いる場所から近くの仕事を探せる」「全国47都道府県のスポットワーク情報を掲載」といった特徴で1,000万人が利用する単発バイトアプリへと急速な成長を遂げた。読者の中にも「タイミーを利用したことがある」「身近な友人・知人が利用している」という方もいるのではないだろうか。

そのタイミーのアプリは、創業時よりRuby on Railsを活用して開発され、2024年には「Ruby biz Grand prix 」大賞を受賞した。 今回はタイミー執行役員CTOの山口 徹氏に、サービス開発の背景についてお話を伺った。

〈 株式会社タイミー 執行役員 CTO 山口 徹 氏 〉

東京工業大学中退後、2003年にWeb制作会社でエンジニアキャリアを開始。2005年にガイアックスに入社し、リードエンジニア、マネージャーを務める。2007年にサイボウズ・ラボでR&Dエンジニアとして研究に従事。2009年にディー・エヌ・エーに入社し、Mobageやスマートフォンアプリの開発を推進。2015年に事業副本部長、2016年に専門役員に就任。2018年にスポーツ事業本部システム部部長に。2020年にベルフェイス入社、CTO兼CPOを兼務し、2021年に取締役執行役員就任。個人として、マギステル代表取締役で複数の技術顧問を兼任。

働くペインを解決しながら、一人ひとりの時間が豊かになるきっかけを提供したい

まずは、スポットワークのマッチングサービスというユニークなビジネスモデルが誕生した背景を尋ねた。

山口氏 タイミーのビジョンは「一人ひとりの時間を豊かに」です。このビジョンは、創業者・小川が、尊敬する祖父の急逝をきっかけに得た「人生の時間は有限である」という教訓から生まれました。

また、小川は学生時代のアルバイト経験を通して、働くことに関してさまざまな課題を感じていたとも言います。たとえば、「働く場所にいざ着いても、事前に教えられていないことが数多くある」といったオンボーディングの不備や、「好きな時間に働けない」という制約、「給与支払いの遅さ」など、さまざまなペインを解決したいという思いから、学生スタートアップとして事業がスタートしました。現在、タイミーでは「一人ひとりの時間が豊かになるようなきっかけを提供したい」という想いのもと、サービス運営を行っています。

また、企業ミッションは「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」で、自由な働き方を提供することを目指しています。「時間にとらわれず好きな場所で、好きな仕事ができる」といった、少し前では考えられなかった自由な働き方を提供していきたいと考えています。

〈 出典:タイミー

サービス急成長の背景をどう捉えているか

ここ数年の間に急速なサービス成長を遂げたタイミーだが、その背景について同社ではどのように捉えているのだろうか。山口氏に尋ねた。

山口氏 2018年の創業当初、飲食店での人手不足を背景に最初のサービス成長の波が訪れました。しかしその後、コロナ禍の影響で、飲食店におけるサービス需要が一時は低下した時期もありました。

その一方で、コロナ禍にはオンラインでモノを買う流れが到来したことで、物流分野での需要は高まりました。2021〜2022年頃のコロナ明け以降は飲食店での需要が回復し、さらにはコンビニ・スーパーなど小売業での利用も拡大していきました。

現在は、飲食・物流・小売の3つの主要産業で幅広く利用されるようになっているため、一般的にタイミーのサービスを目にしていただけるきっかけが増えたのではないかと思っています。

創業時から技術面を支えてきたRuby on Rails

急速なサービス成長の背景で、技術面ではRuby on Railsがタイミーのサービスを創業時から支えてきたという。技術選定の理由についても聞いた。

山口氏 迅速にサービスをローンチしたいという考えから、サービス立ち上げ時よりRubyを採用しています。

Ruby on Railsを選定した主な理由は、最小限の設定で素早くプロトタイピングができる特性を持っているためです。スタートアップにおいては迅速にPDCAを回すことが重要で、余計な設定や規約が不要なRailsの特徴が適していました。

また、豊富なgemの存在、活発なコミュニティ活動、充実したドキュメント等の豊富なコミュニティリソースを活用できる点も非常に便利だったため、選定の重要な要因となりました。

エンジニアの成長と技術力向上が会社とプロダクトの強みに

Ruby on Railsを採用した結果、感じられたメリットについても具体的に聞いた。

山口氏 Rubyコミュニティの敷居が低く間口が広いため、社内のエンジニアがコミュニティ活動や技術発表に積極的に参加するようになりました。エンジニアの個人的な成長や技術力向上が、会社とプロダクトの強みにつながっていると感じています。

また、アプリ内の「給与振り込み」といった金銭が関わるシステムのリアーキテクチャにおいても、Ruby on Railsを活用しました。社内にRails経験者が多く、なおかつ、堅牢性が求められる開発にもRailsが適していたためです。リアーキテクチャのフェーズにおいてもスムーズに開発を進めることができました。

「Ruby biz Grand prix 2024」大賞を受賞

2024年には、「Ruby biz Grand prix」大賞を受賞。Ruby on Railsを活用して開発を続け、新たなビジネス価値を創造してきた点が高い評価を受けた。受賞についてCTOとしての率直な想いや、社内エンジニアチームの反応についても伺った。

山口氏 弊社のエンジニアチームが普段利用しているRubyという言語が、ビジネス開発の現場で活用されているという証明になりましたし、これまで取り組んできたことが純粋に評価されたのでは、と嬉しく思います。

2024年はIPOもして、会社にとって一定の「区切りの年」だったと言えます。しかし、我々の中でIPOは「ゴール」ではなく、さまざまな社会的な信頼を得られた証と考えています。代表・小川は「これからもっとビジネスを拡大していくうえでの特急券」といった表現をしています。

〈 Ruby biz Grand prix 2024 大賞を受賞 〉

今後は事業ポートフォリオの拡充を目指す

「Ruby biz Grand prix 2024」大賞受賞やIPOを経て、今後のビジネスの展望についても聞いた。

山口氏 現在はスポットワークのマッチングサービスを主力としながら、一方で「タイミーキャリアプラス(正社員の職業紹介)」も展開しています。今後は既存事業の拡大に加え、たとえば隣接領域への展開といったポートフォリオ拡充を目指しているところです。

エンジニアリング面では、複数のポートフォリオを支えるプラットフォームの構築と、データAI戦略の推進が主要テーマになると考えています。

特に生成AI活用については、要件定義、プログラミング、品質管理、セキュリティ脆弱性チェックなど開発プロセス全般での活用を検討していく必要があると思っています。また、タイミーアプリ内での生成AI活用についても、お仕事のレコメンデーションや不正検出など、一部はすでに進めつつあります。

生成AI時代に必要なエンジニアの立ち振る舞いとは

最後に、Rubyエンジニアに向けたメッセージを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた

山口氏 Rubyは書き手の心地よさを重視した言語で、シンプルさと柔軟性を兼ね備えており、初心者でも取り組みやすく高度な要件にも対応可能です。Rubyエンジニアの方、あるいはRailsを使える方は、今後も自信を持って取り組んでいくとよいと思います。我々自身もさまざま小規模プロジェクトや、コミュニティ参加などに関わらせていただいています。コミュニティ参加によって得られる成長や技術力向上なども、ぜひ体験してほしいです。

また、生成AIがここまで勃興してきた中、さまざまな論文などで「生成AIとは、院卒の優秀な学生のよう」といった例え方もされますが、あくまで「優秀な道具」と捉えるべきだと私自身は考えています。

生成AIを効果的に活用して付き合っていくためには、質問のコンテキスト自体を理解し、考え、検証するプロセスに人間が本来持つハードスキルを適用する必要があると思います。つまり、「考える力」と「検証する力」という基本的なハードスキルが依然として重要ではないでしょうか。今のところ、2025年初頭においてはそう思います。もちろん、エージェントの進化がさらに加速していく1年になるとは思いますが、少なくとも今においては、従来のハードスキルの重要性が下がったわけではないので、やはり根本的な力を身につけることが重要です。

そして、Railsは便利な機能が数多く提供されていますが、その仕組みは隠蔽されているため、根本的なテクノロジーに触れるのであれば、「Railsの中身とは、どのようにできているのか?」といった部分に興味を持ったりなどして、ブレないスキルを身につけていけるとよいのではないでしょうか。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2025年1月)のものであり、現在変更されている可能性があります。