イタンジ株式会社

Ruby biz Grand prix 2024大賞 不動産取引をなめらかにする「ITANDI」のテクノロジー
イタンジ株式会社は、テクノロジーで不動産業務の効率化に貢献する企業だ。物件情報の鮮度管理や契約状況の自動更新により、業界の非効率な業務フロー改善を実現してきた。
同社が開発したサービスの中でも「内見予約くん」「申込受付くん」「電子契約くん」「ノマドクラウド」といった複数のサービスは2年連続で不動産仲介会社利用率No.1※1となっており、社会的インパクトと課題解決への貢献が評価され、「Ruby biz Grand prix 2024」大賞を受賞。
今回は同社執行役員 CTOの大原 将真氏にインタビューし、システム開発の背景とこれからについてお話を伺った。
※1:リーシング・マネジメント・コンサルティング株式会社「引越しシーズンから探る賃貸住宅不動産市場の最新ニーズと傾向2024」
https://lmc-c.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/08/lmc_releace_20240821.pdf

中央大学商学部卒。卒業後、野村證券に総合職で入社し、リテール業務に従事。その後エンジニアに転業し、ECサイトの開発責任者やB2B向けシステムの新規立ち上げの開発・運用に携わる。2020年3月にイタンジに入社し、主に基盤プロダクトの開発、SREの責任者を担当。2023年11⽉1⽇、執⾏役員CTOに就任、開発本部 部長として、開発、マネジメント、テックリードの他、採⽤や技術広報も担う。
テクノロジーで不動産取引をなめらかに
イタンジ株式会社は、不動産取引をスムーズにするためのさまざまなサービスを提供している会社である。

従来、不動産管理会社や不動産仲介会社といった賃貸取引に携わる事業者側においては「データは手動管理」「電話・FAX文化」「契約申し込みは紙」など、事務作業に多大な手間がかかる課題を抱えていた。
加えて、エンドユーザー側の立場でも「住まい探しに関するポータルサイトで物件を探す際、『おとり物件(情報が掲載されているものの、実際に問い合わせをすると契約済みで取引不可能な物件)』に釣られてしまう」「何度も不動産屋に足を運ぶ必要がある」「入居先決定までに時間がかかる」といったさまざまな課題が存在していた。
こうした不動産賃貸取引をめぐるさまざまな課題について、大原氏は次のようにポイントを指摘する。
大原氏 「不動産業界では、物件情報の鮮度管理が大きな課題でした。各物件の契約状況の更新は手作業で行われていたため、実際の入居状況とのタイムラグが発生し、住まい探しポータルサイトの掲載情報が最新ではない『おとり物件』の問題も起きていました。従来は、入居希望者が来ると賃貸仲介会社から不動産管理会社に宛てて何度も電話・FAXによる確認が必要で、業務フローが非効率だったといえます」
そこで、イタンジ株式会社では、テクノロジーの力で社会課題の解決を試みようとさまざまなプロダクト開発を続けてきた。
その皮切りとなったのが、不動産管理会社向けの電話自動応答サービス「ぶっかくん」だ。管理会社がこのシステムを導入し、物件の最新情報を登録しておけば、その後の電話での受け答えを自動化できる。管理会社は、仲介会社からの電話を何度も受けなくて済み、事務作業を効率化できる仕組みを構築できる。
その後も、賃貸不動産の入居申込受付システム「申込受付くん」をはじめ、不動産管理に関するさまざまなプロダクトを開発。申し込みや契約に関連するデータをデジタルで捉えることで、物件情報の自動更新を実現してきた。

特に、物件情報のリアルタイム性の高さが特長で、そのデータを活かして管理会社/仲介会社向けのリアルタイム業者間サイト「ITANDI BB」も運営している。

ITANDIのサービス群に対して寄せられる不動産関連企業からの声について、大原氏は次のように紹介する。
大原氏 「リアルタイム性の高い業者間サイトという点で評価をいただき、現在では多くの仲介会社に利用されています。
入居申し込みを行う段階では保証会社とのやりとりが発生したり、部屋の契約をする際にはライフライン(電気・ガスなど)事業者との情報連携も必要です。こうしたさまざまなステークホルダーと情報をやり取りすることで、最終的にエンドユーザーの体験を良くすることを目指しています」
現在は、不動産管理会社の管理戸数上位100社中60社がITANDIのサービスを利用、大手企業でも導入が進んでいる状況だという。賃貸入居申し込み全体の約40%(※紙による申し込みも含む)※2はITANDIのサービス経由であり、その結果、不動産管理会社/仲介会社の業務効率化や、書類のペーパーレス化、コスト削減にも貢献している。
こうした不動産業界に対する社会的インパクトの大きさと課題解決への貢献が評価され、2024年には「Ruby biz Grand prix」大賞を受賞。プロダクトが技術面からも認められた喜ばしい出来事となった。
※2:全国賃貸住宅新聞発⾏「賃貸仲介・⼊居者動向 データブック 2024」の2023年賃貸仲介件数(推計)178万件より、ITANDIの申込から契約までのキャンセル率33%を基に⼊居申込数を265万件と算出し、ITANDIの年間電⼦⼊居申込数107万件から割合を推計

サービスをバックエンドで支えるRuby on Rails
ここまで紹介してきた通り、テクノロジーで不動産管理会社/仲介会社の利便性を高めることを追求し、さまざまなサービスをリリースしてきた。各サービスのバックエンドでは、Ruby on Railsが活用されている。
大原氏 「サービス開発に取り組み始めた当初は、PHPやJava系の言語を使用していましたが、2015年頃からRuby on Railsを採用しました。
シンプルで可読性の高い文法で開発生産性に優れ、Ruby on Railsのレールに沿った開発によってプロジェクトの立ち上げが容易で、なおかつ品質を担保できる点が大きなメリットです。弊社における年1回程度の新プロダクトリリースという開発スピードに適していました。
また、モジュラーモノリスアーキテクチャの実現や、複数プロダクト間での共通コードの再利用が容易であったり、データ連携を効率的に進められるなどスケーラビリティとメンテナンス性にも優れています。
そして、日本国内におけるRuby人材市場とコミュニティも充実しています。コードレビューなど情報共有や問題解決のサポート、数多くのプロダクトにおける採用実績、継続的なバージョンアップと長期サポートなど、多くのリソースが既に用意されていた点もメリットでした」
サービス価値向上に向け、より多くのステークホルダーと連携強化を図りたい
直近では、複数サービス間のAPI連携が複雑化する課題に直面。解決策として、一つのシステム内で複数のモジュールに分けて開発するアプローチを採用している。
大原氏 「不動産賃貸業務という特性上、業務間の情報連携が必要不可欠で、システムを細かく分割することよりも、一つのシステム内でモジュール化する方が生産性が高いと判断しています。
今までは、互いに独立したシステムとして『ぶっかくん』『内見予約くん』『申込受付くん』などのラインナップで販売を行い、複数プロダクトを導入いただく企業も増えました。しかし、導入企業から見れば独立したシステムではなく『ITANDI』という一つのサービスに感じられると思うので、各プロダクトをさらにシームレスに繋がるようにして、ユーザー体験を良くしていこうとしています。開発難易度は高いですが、連携強化を目的とした開発や、必要に応じて既存システムの統合などを検討中です。
また、ビジネスサイドの視点として、今までお客様からお預かりしてきたデータと社外のシステムなどとの連携を増やし、最終的に不動産に関わる全ての人の体験をさらに改善していきたいと思っています。我々1社だけでは実現できないことも多いので、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら不動産のインフラとなるようなサービスを作っていけたら良いなと考えています」
Rubyエンジニアへのメッセージ
最後に、大原氏にRubyエンジニアへのメッセージを問いかけたところ、次のような答えが返ってきた。
大原氏 「Rubyは自然言語に近く書きやすい言語であり、開発者が実現したいことを迅速に実装できる点が特長です。Rubyの柔軟性のもと、Ruby on Railsや、さまざまなエコシステムが発展してきました。昨今は、他の言語も台頭してきているものの、少人数でもビジネスの要件を実現できる点で、Rubyの競争優位性は高いと考えています。
また、エンジニアが成長を止めないためには、現状に満足せず知識を常にアップデートし続けることが重要です。キャリアステージによって、求められる姿勢は異なってくると思います。例えばジュニアエンジニアのうちはさまざまな情報に貪欲に触れ、実際に手を動かして試すことが大切です。一方、ミドル・シニアでは限られた時間の中で経験を活かし、情報を適切に見極める力が必要だと思います。
単にコードを書く技術力だけでなく、成果物の価値や、要件の充足度を適切に判断する能力が重要です。会社のビジョン・ミッションを理解し、事業との紐付きを意識することが不可欠で、世の中に役立つ価値を生み出す視点を持つことも大切ではないでしょうか。
直近では生成AIの進化によって作業が自動化される時代になってきています。しかし、AIによる出力を疑ったり、検証・精査したりすることなく使用する人がいることは懸念に感じます。AIによる生産性向上や自動化は歓迎すべきですが、最終的な判断や意思決定は人間が行う必要があります。そうした判断力を培うためには、人が実際に手を動かして作業に取り組む機会と、AI活用のバランスを取ることがポイントだと思います」
※本事例に記載の内容は取材日時点(2025年2月)のものであり、現在変更されている可能性があります。
事例概要
- 会社名
- イタンジ株式会社
- 開発した主なシステム
- リアルタイム不動産業者間サイト「ITANDI BB」
- 不動産賃貸業務のDXサービス群「ITANDI BB +」
- 利用技術
- フロントエンド:Next.js
- バックエンド:Ruby on Rails
- データベース:MySQL、OpenSearch
- データ処理:Apache Airflow、Google Big Query
- ニーズおよび解決したかったこと
- 不動産業界の非効率的な業務フローのデジタル化
- システム間連携の複雑性の解消
- データ活用を通じて住まい探しの消費者体験をより良くする
- Ruby採用理由
- 高い開発生産性
- スケーラビリティとメンテナンス性
- 人材市場とコミュニティの充実
- Ruby採用効果
- 開発スピードと品質の両立
- システム統合とスケーラビリティの向上
- 組織的な開発効率の改善