エースチャイルド株式会社

少人数で高速開発!子どもたちの安心を守るプロダクト開発の軌跡

教育とITの狭間で、子どもたちの安心を守るプロダクトを生み出してきたエースチャイルド株式会社。

「子どもたちが安心してITと向き合える環境をつくりたい」。その想いが「Filii(フィリー)」や「つながる相談」、「つながる連絡」といった様々なサービスを生み出してきた。なかでも「Ruby biz Grand prix 2024」で受賞した「つながる相談」は、技術と社会課題解決を高次元で両立させた好例だ。

今回は創業初期から支えてきたエンジニアリングマネージャー・藤田敬太氏にお話を伺った。

〈 藤田敬太(画像右) エンジニアリングマネージャー 〉

大学卒業後、大手SIerにてキャリアをスタート。主に受託案件の上流工程を中心に手掛ける。
もっと開発現場でプログラムを書きたいとの思いから退職。2015年1月1日、前職の先輩であった西谷が立ち上げたエースチャイルドにジョイン。
創業メンバーとして事業やプロダクトの成長を支えてきた。2023年1月より現職。
趣味は、ピアノの演奏とDTM(デスクトップミュージック)。

創業初期 — ネット上の危険から子どもを守る「Filii」

2013年、スマートフォンが急速に普及し始め、LINEをはじめとするSNS上での「見えないいじめ」が社会問題化していた。いじめがあっても保護者は気づけないことから、スマホを持たせない風潮もあったという。藤田氏は当時をこう振り返る。

藤田氏「スマホを持たせない選択ではなく、健全に使いながら子どもたちを守る仕組みを作りたいという、代表西谷の強い想いがありました。」

こうして誕生したのが、子どものSNS利用を見守るアプリ「Filii」である。DMなどで特定のやりとりがあれば、内容そのものではなく、アラートとして親子双方に通知する仕組みを採用。家庭内での気づきを促しつつ、プライバシーにも配慮した設計であった。

しかし、当時は「子どものスマホ利用を見守る」という発想自体が一般的ではなく、理解を得るのは容易ではなかった。藤田氏はこう語る。

藤田氏「先進的すぎて、当時はユーザーの理解が追いつきませんでした。スマホショップでアプリを紹介してもらったり、代理店に協力を仰いだりもしましたが、ユーザーに受け入れられるまで本当に苦労しました。」

一方で、自治体との実証実験でアンケートで高評価を得るなど、プロダクトとしての有用性は確信できた。この経験が、後に新しいプロダクト「つながる相談」の開発につながっていく。

新事業の誕生 — 相談のハードルを下げる仕組み「SNS相談」

エースチャイルドは、もともと「Filii」を通じて、自治体の電話相談支援に携わっていた。

あるとき、LINE社がとある自治体でLINEによる相談窓口を試験的に導入した。その結果、年間250件程度だった電話相談件数が、わずか2週間で約1,500件に急増した。電話や対面で相談することを敬遠する多くの子どもたちが、「SNSなら相談できること」が示された。

この実証実験の成果を受け、文部科学省がSNSやアプリで相談対応を行う事業者の事例紹介会を開催し、SNS相談を展開する流れができつつあった。エースチャイルドも登壇し、この経験から「LINEによる相談が最も効果的である」と確信。これが「つながる相談」サービス立ち上げのきっかけとなり、SNS相談事業に参入することとなった。

「相談の心理的なハードルを下げれば、必要な人に届いてもっと気軽に相談してもらえる。」

そう確信したエースチャイルド社の創業メンバーは、開発メンバーが1〜2名という少人数の体制で、わずか3ヶ月の間にSNS相談を一元管理できるプラットフォーム「つながる相談」を開発した。 現在、「つながる相談」は160を超える自治体やNPOで導入され、入札のたびに新たな機能改修が必要がないほど洗練されたサービスとなっている。

また、社内に相談事業部を設置し、システム導入だけでなく相談対応の体制も整え、提案から安定した継続運用までワンストップで提供できる体制を確立した。競合サービスとの差別化ポイントは、お客様の声を聞いて迅速にサービスをブラッシュアップし続ける姿勢である。

藤田氏「他社では細かい要望に応えてもらえないという声を聞きますが、弊社ではできる限り迅速に対応することを心がけています。お客様から“使い勝手が良くて離れられないね”とおっしゃっていただけたりもして嬉しいです。社会のためになっているなと実感します。」

SNS相談一元管理システム「つながる相談」は、幅広い利用と社会的な影響の大きさが認められ、「Ruby biz Grand Prix 2024」デジタルコミュニケーション賞を受賞した。 こうした評価は、同社が長年積み重ねてきたRubyを活用した開発の信頼性を示すものであり、今後の採用や事業展開にも大きな後押しとなる。

各サービスを技術面から支えてきたRuby on Rails

各サービスを技術面で支えるのがRuby on Railsだ。開発言語としてRubyを採用した最大の理由は、その生産性の高さだと藤田氏は語る。

藤田氏「初期プロトタイプを2〜3名という少人数で作れたのは、RubyやRuby on Railsのおかげです。テンプレート化して仕組みを立ち上げるスピードは圧倒的でした。ビルドや起動に時間がかかる他言語と比べても、Rubyは起動が速く、必要なライブラリもGemですぐ使える。少人数で高速に開発できるというというのは本当に助かっています。他にも、Ruby on Railsは2013年当初と比べてかなり進化もしていて、長期的に安定して開発できる基盤を作ってくれているところも恩恵を受けています。」

同社では、バックエンドからフロントエンドまで、可能な限りRuby on Railsに統一した技術スタックを採用しているという。その背景には、チームメンバーがRubyとRuby on Railsを好み、活発なコミュニティから知見を得ているという事情もあるとのこと。

藤田氏「Rubyに統一することで、チーム内の知識共有が容易になり、開発者全員が同じ技術基盤で作業できるため、連携がスムーズになりました。 また、国内に活発なコミュニティが存在することも大きなメリットです。新しい技術やトレンドの学習機会となることや、コミュニティイベントにスポンサーとして参加することで優秀なエンジニアの採用に効果が出始めています。社内にRubyが好きなメンバーが多く、コミュニティの話を聞くたびに“やっぱりRubyだな”と思います。」

「Filii」と「つながる相談」に共通するのは、形は異なっても「社会課題を技術と寄り添いの姿勢で解決する」という信念である。ネット環境や子どもたちを取り巻く課題は年々複雑化しているが、藤田氏は未来を見据えている。

藤田氏「創業当時と比べ、子どもたちのネットリテラシーは上がったが、それに応じて問題も高度化しているように感じます。これからも現場に寄り添いながら、必要とされるものをスピーディに届けたいと思っています。そして、RubyやRuby on Railsという強力な技術基盤とともに歩み続け、技術の力で社会課題解決に貢献していきたいです。」

Rubyエンジニアへのメッセージ

藤田氏は、RubyエンジニアやこれからRubyを学ぶ方へ向けて次のようなメッセージを送る。

藤田氏「私がRubyから受けている恩恵は、何よりも速くプロトタイプやサービスを作れることです。そして、コミュニティが非常に充実していて、継続的に改善が進められています。将来性も十分にあるので、個人でサービスを立ち上げたい方には特におすすめです。積極的に学んでほしいと思います。 他の言語にもコミュニティはありますが、Rubyの場合は、まつもとゆきひろさんやコミッターたちのディスカッションを日本国内で気軽に聞ける機会があります。人とプログラミング言語の関わり方を体感できるのも魅力の一つです。自分のアイデアを形にしたいと思うなら、Rubyは非常に良い選択だと思います。」

※本事例に記載の内容は取材日時点(2025年8月)のものであり、現在変更されている可能性があります。