STORES 株式会社
「Just for Fun」をテクノロジーで実現する STORES がRubyを選び続ける理由
「Ruby biz Grand prix 2025」において、最高賞の大賞に輝いたのはSTORES 株式会社が展開する店舗運営に必要なデジタルツールを揃えた総合プラットフォーム『STORES(ストアーズ)』であった。
決済・レジからEC・予約・会員管理まで、専門知識不要で誰でも簡単にオンライン・実店舗の販売・管理を一元化できる。
商売のあらゆるフェーズを網羅するこのプロダクト群は、今や日本中の中小事業者にとって、こだわりを形にするための不可欠なインフラとなっている。
かつて個別のサービスとして歩んでいた『STORES.jp』『Coiney』『Coubic』の3社が経営統合を経て一つのプラットフォームへと進化した背景には、一貫した思想がある。
それは、大資本による効率化だけではない、個人の情熱が駆動する経済圏をテクノロジーで支えるという決意だ。
この巨大かつ複雑なエコシステムを支える屋台骨として、同社は一貫してRubyを選択し続けてきた。
その技術的決断の裏側にある“覚悟”について、開発組織を率いる小室直氏に話を聞いた。
2011年に株式会社ドワンゴに入社。その後、クックパッド株式会社にて技術部部長として開発組織の技術戦略推進を手掛ける。2021年にヘイ株式会社(現 STORES 株式会社)に入社し、テクノロジー部門CTO室にて組織横断の技術課題解決に取り組む。2023年1月より技術基盤グループマネージャーとして、全社開発組織における技術課題の推進をリード。2025年1月にVPoEに就任(現任)
「Just for Fun」が支える個の経済圏
STORES 株式会社が掲げるミッション「Just for Fun」には、こだわりや情熱、たのしみに駆動される経済を作るという想いが込められている。小室氏は、同社のプロダクト群とこのミッションの結びつきを次のように語る。
小室氏「例えば、一軒のおしゃれなカフェを作る背景には、提供するコーヒーや空間といった事業者の強いこだわりがあるはずです。そうした情熱を形にするときに、デジタル化やインフラ構築という壁に突き当たることなく、本来の商売に集中できる環境を提供したい。『STORES』を利用するだけでビジネスの土台が整い、“こだわりや情熱、たのしみに駆動される経済を作る”ことを目指しています。」
かつて別会社として運営されていた各事業が一つになったのも、事業者のDay 1から販路拡充までをシームレスに支援するためだ。事業者からも、1つのサービスを契約するだけで済む点は、喜ばれているという。
ネットショップと実店舗の在庫が連動し、決済データが一元管理される。こうした「当たり前だが難しい」ことを、ITの専門知識を持たない事業者でも容易に実現できる仕組みこそが、STORES の最大の強みである。
マイクロサービスからモノリスへの回帰
技術的な変遷に目を向けると、同社は思い切った舵取りを行ってきたことがわかる。
2024年以前、新しいプロダクトを作るたびにシステムを独立させて構築するマイクロサービス的な手法を採用していたが、2025年からは既存システムを拡張する方向へ舵を切っている。
小室氏「2024年以前は、新規プロダクトを作るたびにインフラからゼロイチで構築していました。しかし、プロダクトが『1つの STORES』として統合されるにつれ、システム間の密接な連携が必要不可欠になったんです。そこで2025年からはバラバラのシステムという考えを改め、モノリシックアプリケーション開発の強みを活かし、既存システムを拡張する方針にシフトしました。意識が変化し、本来の目的である“顧客への価値提供”にリソースを集中させる体制が整いました。」
Ruby/Railsという強力な道具を選ぶ理由と覚悟
このスピード感あふれる開発を支えているのが、Ruby、そしてRuby on Railsだ。
他言語やフレームワークとの比較を経てもなお、『STORES』がRubyを使い続ける理由は、それが「価値提供への最短距離」だからだという。
小室氏「RubyやRailsは、Webサービスを構築する上で非常に強力な道具です。ユーザーにどんな価値を届けるか、という本質的な議論にすぐたどり着ける。例えばリクエストのルーティングやバックエンドの繋ぎ込みや、アプリケーションとデータベース間のコネクションプールの仕組みをどうするかといった典型的な処理に迷うことがないように、先人たちが築き上げた『レール』が非常に多岐にわたっており、我々のような多機能なプロダクトを構築する上でも、その引き出しの多さに助けられています。コードの可読性についても、Rubyは非常にコンパクトにロジックを表現できます。何を書くべきか、何をしたいのかがストレートに伝わる。この効率性の高さは、膨大なコードを読み書きし続ける組織にとって大きなメリットです。」
また、社内にRubyコミッターが在籍していることやRuby関連イベントのスポンサーを積極的に行っていることからも、同社のRuby愛が伝わってくる。
Rubyコミュニティは、プログラミング言語そのものを創り上げる世界トップレベルの知見が身近にあり、共に高みを目指せる環境だ。
この「言語開発」と「サービス開発」が地続きになったコミュニティの構造が、エンジニア一人ひとりの視座を高め、組織全体の知見を飛躍させている。
小室氏「Rubyコミュニティは、言語そのものを作る人から初心者までが地続きで存在する、かなり特異なコミュニティと感じています。私たちはRubyという技術を、覚悟を持って選んでいます。その姿勢に共鳴してくれるエンジニアが集まっていることも、大きな財産ですね。」
お店の「Day 1」から販路拡充まで伴走する存在へ
今回の「Ruby biz Grand prix 2025」大賞受賞について、小室氏は「率直に驚いたが、自分たちの想いが伝わったようで非常に嬉しい。」と顔をほころばせる。
今後はどのような展開を目指すのか。小室氏が描く未来は単なるITツールとして業務効率化の立ち位置ではなく、とことん「Just for Fun」を目指すものであった。
小室氏「『お店をやるぞ』と決めたその日。つまりDay 1から、商売が軌道に乗り販路を広げていく全ての過程で、まず最初に選ばれる存在になりたいと考えています。今、キャッシュレス決済やレジの導入をきっかけに使い始めてくださる方が多いですが、その先にあるEC展開やデジタルでの店舗運営を、いかに自然に、そして楽に実現できるか。事業者が本来持っている強いこだわりを、デジタルの力でもっと加速させていきたいのです。」
AI時代のエンジニアに求められるもの
最後に、AIがコードを生成する時代の到来を前に、これからのRubyエンジニア、そして学習者へ向けてメッセージを求めた。
小室氏「仕様通りにプログラムを書くだけの仕事は、AIによって平易なものになるでしょう。これからのエンジニアに求められるのは、プログラムを通じて『どう価値を提供するか』まで責任を持つことです。RubyやRailsは、まさにその本質的な活動に集中させてくれる技術です。これから学ぶ方々にも、技術の先にある価値を見据えてほしい。私たちは、Rubyを深く使い込み、商売の未来を共に作る仲間を待っています。」
Ruby biz Grand prix 2025の大賞受賞は、通過点に過ぎない。「Just for Fun」の精神を掲げ、Rubyと共に歩むSTORES 株式会社の挑戦は、これからも事業者のこだわりを経済の主役にしていくだろう。
※本事例に記載の内容は取材日時点(2026年1月)のものであり、現在変更されている可能性があります。
事例概要
- 会社名
- STORES 株式会社
- 開発した主なシステム
- STORES
- 利用技術
- バックエンド:Ruby, Ruby on Rails, Java, Spring Boot, Go
- フロントエンド:Vue.js, Nuxt, React, Next.js, Remix
- インフラ:AWS, Google Cloud, Cloudflare, Datadog, MySQL, PostgreSQL, MongoDB, Terraform
- データ分析:BigQuery, dbt, TROCCO, Metabase, Argo Workflows, Python
- iOS:Swift, SwiftUI, UIKit, Kotlin Multiplatform
- Android:Kotlin, Jetpack Compose, Kotlin Multiplatform
- ニーズおよび解決したかったこと
- オムニチャネル対応への負荷軽減
- 店舗運営システムの複雑さと導入コストの解消
- 人手不足と経営環境悪化に伴う「生産性向上」
- Ruby採用理由
- 「変化への即応性」を最大化する開発スピード
- 豊富なエコシステムと開発体験
- Rubyの「柔軟性と記述性」がもたらす開発効率
- Ruby採用効果
- 複雑なプロダクト統合と価値提供の高速化
- エンジニアの「楽しみ」と「こだわり」の追求
- Rubyコミュニティへの貢献によるプレゼンスの向上