RIZAP株式会社
IT人材ゼロから会員数日本一達成へ。chocoZAPの巨大な「黒子」システムを完全内製化した舞台裏
「カンタン」「便利」「たのしい」をコンセプトに、全国に彗星のごとく現れたコンビニジム『chocoZAP(チョコザップ)』。
その爆発的な多店舗展開と会員増を支えているのが、スマートフォンアプリや基幹システム、各種IoT機器等と連動した強固なシステムだ。
この巨大なサービスを動かすRIZAP株式会社は、2025年に開催された『Ruby biz Grand prix 2025』にて、国内外のビジネスにおけるRuby活用の優れた事例として見事、大賞を受賞した。
しかし、驚くべきことに、わずか数年前まで同社にはITエンジニアが社内に実質1人もいない状態だったという。
外注依存度100%だった組織が一転し、いかにしてRubyおよびRuby on Railsを武器に完全内製化を果たし、爆発的な事業スピードに耐えうる強靭なプロダクトを作り上げたのか。
立ち上げ期からRIZAPグループのDXを牽引してきたRIZAPテクノロジーズ株式会社の佐藤氏と、新卒総合職からバックエンドエンジニアへと転身を遂げた梅田氏に、その激動の舞台裏を詳しく聞いた。
RIZAPテクノロジーズ株式会社 取締役 プロダクト開発統括1部 部長
2021年11月にRIZAPに参画し、RIZAPグループ全体におけるWebエンジニアリング組織の強化と開発の内製化を強力に推進。RIZAPテクノロジーズの取締役として技術戦略を牽引し、Rubyを中核に据えた採用、社内育成プログラムを構築。未経験から事業を牽引するエンジニアを育て、強靭な開発組織をリードしている。
RIZAPテクノロジーズ株式会社 バックエンドユニット ユニット長
D2C事業の商品開発やCRMの担当からエンジニアへ転身。社内育成プログラムでRuby/Railsをゼロから習得し、現在はバックエンドユニット長としてチームを牽引。これまでの実務経験を活かした「事業目線」の開発を主導している。
突如下された「内製化」の号令。IT人材ゼロから始まった逆転の組織づくり
現在でこそ、chocoZAPの多種多様なシステムを自社で開発・運用するRIZAPテクノロジーズだが 、2021年の初頭までは開発のほぼすべてを外部ベンダーなどの外注に依存していた。
転機が訪れたのは2021年5月。RIZAPグループの代表である瀬戸氏による、強烈なトップダウンの決断だった。
佐藤氏「世間ではちょうど大手小売業などでIT内製化の潮流が話題になっていた時期 でした。経営陣としても、DXを内部で推進することで、今後の事業拡大や市場の急速な変化に対して圧倒的なスピード感を持ってクイックに対応していける組織を作らなければならない、という強い危機感と確信があったのだと思います。ただ、その号令がかかった当時は、社内にシステムを内製化できるようなIT人材は実質ゼロ。まずは仲間を集めるIT人材の採用からすべてがスタートしたと聞いています 。」
まず、のちにRIZAPテクノロジーズの代表となる 鈴木氏が参加し、同年11月、エンジニアかつIT人材の実質1人目の社員として入社したのが佐藤氏だった。
一般のIT企業では想像もつかないような誰もいない環境からのスタートだったが、佐藤氏は入社初日から組織化と人材育成を見据えて動き出す。
その最初の育成対象となったのが、2019年にRIZAPグループへ総合職として新卒入社していた梅田氏だ。
佐藤氏「入社して周りを見渡したら本当に私1人しかいなくて、これは『やばい』と(笑)。社内でIT人材を育て上げるべく手を尽くす中で、総合職だった梅田がエンジニアへのジョブチェンジに手を挙げてくれました。そこから私のマンツーマンによる育成が始まったのです。」
2000店舗×100万人を支えるリアルタイム予約基盤。リアルとデジタルが融合する「黒子」のシステム
佐藤氏が入社した時期は、ちょうど「コンビニジム(マイクロジム)」という新しい事業コンセプトが経営陣の頭の中で急速に具現化し、のちのchocoZAPとなるプロジェクトが動き出すタイミングであった。
佐藤氏「無人ジムという性質上、デジタル技術を大前提としたサービスになることは明白でした 。入社してすぐに『アプリが必要だ』となり、やるべきことが多々あり目まぐるしい日々でした。」
最初は、テスト店舗を用いて外部のSaaSを組み合わせることで、まずはビジネスモデルが成り立つかというPoC(概念実証)を実施。
手応えを得た段階で、本格的にchocoZAP専用のスマートフォンアプリを構築することになった。
佐藤氏「当時は私しかいませんでしたから、最初からすべてを自社で作ることは不可能です。そのため、初期のアプリ立ち上げは外部のベンダーさんへ外注してスタートしました 。ただし、その発注の段階から、私は『将来は100%自社で内製化する』ということをベンダーさんに明確に伝え、コミュニケーションを取っていました。後からスムーズに引き継ぎができるよう、あらかじめ技術スタックの指定などを徹底していたのです。」
限られたリソースの中で、決済代行や店舗の解錠の仕組みなど、既存の優秀なSaaSで代替できる部分は徹底的に切り分けを行い、本当に自社で作り込むべきコアな領域を見極めていった。
こうして生まれたchocoZAPのアプリだが、開発チームが最も大切にしているのは「お客様にシステムの存在を感じさせないこと」だという。
佐藤氏「究極を言えば、私たちの存在はお客様にとって『黒子』であり、意識されない状態こそが一番のベネフィットだと考えています。主役はあくまで、リアルな店舗へ足を運んで運動してもらい、健康になってもらうこと。ECの巨大な物流倉庫をお客様が意識せずに自由に買い物できるように、私たちも店舗しか見えていないけれど、裏側ではものすごく高度なシステムが当たり前のように、ストレスフリーに動いている状態を目指しています。」
黒子の凄さを象徴するのが、昨年梅田氏を中心に開発された独自の「店舗サービス予約システム」だ。
chocoZAPの予約は、一般的な映画館やホテルの予約システムとは全く異なる特殊な要件を求められる。
梅田氏「chocoZAPを利用されるお客様は、何日も前から計画的に予約するというよりも、『今ちょっと隙間時間ができたから30分後に行こう』『店舗に今着いたらルームが空いていたから、今すぐスマホで予約して使おう』といった突発的でフレキシブルな使い方を期待されています。そのため、あらかじめ固定された予約枠を埋めていくのではなく、10分単位でお客様が好きな時間帯を自由なスパンで指定して予約を確保できる柔軟な仕組みを設計・開発しました。」
約2,000店舗※1ある中で、1店舗あたりにカラオケやセルフエステなどの予約枠が5~6個あるとすると、それだけで管理すべき予約枠は1万を超える。
その1万以上の流動的な予約枠を、100万人※2を超える会員のアクセスがリアルタイムで行き交う。
一見シンプルに見えるアプリの裏側では、実は非常に大規模で難易度の高いアーキテクチャが構築されているのだ。
※1:2026年5月14日時点:国内の直営・FC、海外店舗の計:全国1,962店舗
※2:2026年5月14日時点:会員数116.1万人
なぜ他の言語ではなくRubyだったのか?少人数で打った最善の手
外注から内製化へと舵を切り、これほど複雑でトラフィックの激しいシステムを構築していくにあたり、同社が開発基盤として選定したのがRubyおよびRuby on Railsだった。
技術選定の背景には、当時1人だった佐藤氏による、徹底的に現実を見据えた足切りと戦略があった。
佐藤氏「当時の主要な言語はひと通り比較検討しました。ただ、選定の軸は技術的な優劣ではありません。当時は私1人の組織で、SESなどの外部パートナーも含めてこれから人を集めなければならない過渡期。だからこそ『現実的に人材が集まるか』『未経験者にも教えやすいか』という2点を最優先の基準に置きました。その基準で見たとき、Rubyには決定的な強みがありました。フレームワークが事実上『Ruby on Rails』の1択で、ドキュメントも学習教材も人材のプールも、すべてが1点に集中しているんです。採用と育成を100%私のワンオペで見なければならない状況で、手広くやる余裕はありません。スタートアップ的にプロジェクトが進んでいく社風との相性、教育のしやすさ、コミュニティの成熟度、そして自身のこれまでの開発経験を踏まえ、最もベターな選択としてRubyに絞り込みました。」
このRubyおよびRuby on Rails1本に絞るという決断は、外部ベンダーへアプリ開発を委託する際にも大きなアドバンテージとなった。 あらかじめ「言語はRuby、フレームワークはRails」と指定して発注したことで、開発されたコードを引き受け、社内で新しく採用・育成したエンジニアたちへ引き継ぐプロセスが極めてスムーズに進行したのだ。
また、佐藤氏は日本発のプログラミング言語であるRubyならではの見えない価値についても語る。
佐藤氏「言語の作者であるまつもとゆきひろさんが日本にいらっしゃって、RubyKaigiなどのカンファレンスを通じて、直接日本語でコミュニケーションが取れる環境があるというのは、目に見えないけれど非常に大きな価値です。この人が作ったんだという温かみやコミュニティの近さを感じられるのは、エンジニアのモチベーションや新卒の文化形成 においても大きな支えになりました。」
RubyがWebの教科書になる。新卒エンジニアが爆速で育つ教育環境
RIZAPテクノロジーズの開発組織を語る上で欠かせないのが、新卒や未経験者を爆速で一人前のエンジニアへと引き上げる強固な育成体制だ。
同社では、新卒でエンジニアとして入社したメンバーに対し、将来フロントエンドやバックエンドの配属になるかどうかにかかわらず、全員が一律で最初にRubyおよびRuby on Railsの研修を受ける仕組みを取り入れている。
梅田氏「どのポジションを担当するにしても、Webアプリケーションがどういう根本的な仕組みで動いているのかという知識は共通して必須になります。それを教える教材として、RubyとRailsの組み合わせは非常に効果が高く、実際に教育を担当していても若手の成長のスピードが目に見えて違います。」
佐藤氏「Railsの最大の特徴は『設定より規約(Convention over Configuration)』という思想にあります 。通信がどう入ってきて、どうデータベースを処理してどう返すか、コントローラーやモデルをどう書くべきかが、フレームワークのルールとして最初から綺麗に決まっている。窮屈に感じる局面もあるかもしれませんが、未経験者からすれば、Railsの言う通りに書くだけで自然と典型的なWebのベストプラクティスが学べるんです 。まさに『RailsそのものがWebの教科書』であり、準公式のRailsガイドやAPIドキュメントなどのオープンな教材や書籍が世の中に充実している点も、教育コストを下げる上でこれ以上ない強みになっています。」
さらに梅田氏は、Rubyという言語そのものが持つ楽しさについても言及する。
梅田氏「Rubyは自然言語に近いと言われるように、まるで人が話すような感覚でコードを書くことができます 。単にタスクとしてプログラミングをこなすだけでなく、実際に手を動かしながら『プログラミングって楽しいよね』と直感的に思いやすい言語なんです 。また、国内のコミュニティやイベントが非常に活発なため、若手エンジニアが自ら勉強会やイベントに足を運び、憧れのコミッターの方々と直接お話をさせていただくなど、外の世界から刺激を受けやすい環境が整っていることも、若い才能が伸びていく大きな要因だと感じています。」
Ruby biz Grand prix 2025受賞とAI時代におけるこれからのエンジニアへのメッセージ
外部委託からスタートし、フリーランスの参加、中途、そして新卒の育成という4段階のステップを着実に踏みながら、開発のスピード・品質・拡張性を引き上げてきたRIZAPテクノロジーズ。
完全内製化を果たし、爆発的なトラフィックを捌き切るまでに成長した彼らの軌跡が評価され、今回の『Ruby biz Grand prix 2025』大賞の受賞へと繋がった。
梅田氏「普段は黒子として、お客様から直接システムの裏側を評価される機会は多くありません。だからこそ、自分たちが地道に積み上げてきた内製化の取り組みや、作ってきたプロダクトの価値をこうして公に評価していただけたことは、社内のメンバーにとっても大きな自信と誇りになりました。受賞後は多くのメディアにも取り上げていただき、社内でも非常に良い反響と、さらなる開発へのモチベーションが生まれています。」
今後、同社はchocoZAPのさらなる規模拡大を見据え、デジタルに閉じない「リアル店舗の無人運営」というフロンティアへ、RubyとAIを掛け合わせて挑戦していくという。
店舗運営の状況をデータでリアルタイムに把握し、必要な対応を素早く店舗へ届ける。リアルならではのオペレーションをテクノロジーで支えることで、お客様がいつでも快適に使える店舗品質を追求していく構えだ。
最後に、これからRubyを学ぶ人、そしてすべてのRubyエンジニアに向けて、2人から力強いメッセージをいただいた。
梅田氏「昨今はAIが目覚ましく台頭し、人間がコードを1行も書かなくてもプログラムが動く時代になりつつあります 。しかし、だからこそエンジニアのあり方が問われています。AIが出力したコードに対して、それが本当に正しいのか、どうあるべきなのかを人間の頭で論理的に判断できなければ、これからの時代に活躍することは難しくなるでしょう。Rubyはプログラミングの本質的な考え方や設計の美しさを学ぶ上で、今なお学ぶべき価値のある言語です。AI時代だからこそ、エンジニアとしての確固たる基礎を築くために、ぜひRubyを使い倒して成長していってほしいですね。」
佐藤氏「AIの時代において、究極を言えば『言語やフレームワークなんて何でもいい』という議論に収束しがちです 。しかし、私たちが数年間、chocoZAPという日本最大級の規模のサービスを最前線で動かしてきた実績をもとに言える事実が1つあります。 それは、『chocoZAPほどの大規模なWebサービスを作ること、そしてAI時代の開発スピードを追い求めることにおいて、RubyやRailsがボトルネックになったことは何一つない』ということ。ですから、皆さんも何ら迷うことなく、安心してこれからもRubyを使い続け、皆でこの素晴らしいエコシステムをさらに盛り上げていきましょう。」
100万人を超える会員の日常を支える巨大な黒子システムは、これからもRubyという強固な武器を携え、私たちの想像を超えるスピードで進化を続けていくに違いない。
※本事例に記載の内容は取材日時点(2026年6月)のものであり、現在変更されている可能性があります。
事例概要
- 会社名
- RIZAP株式会社
- 開発会社
- RIZAPテクノロジーズ株式会社
- 開発した主なシステム
- chocoZAPスマートフォンアプリ
- 店舗サービス予約システム
- 会員登録 / マイページ / 認証認可基盤 / 顧客基盤
- IoT連携 (冷暖房・AIカメラ・店内タブレットなど)
- 利用技術
- Ruby
- Ruby on Rails
- ニーズおよび解決したかったこと
- 高価格による参入障壁
- 高負荷で続けにくいトレーニング
- 継続困難(フィットネスが身近でない)
- Ruby採用理由
- 開発のスピード
- 開発の生産性
- 学習のしやすさ
- Ruby採用効果
- 短期間での内製化実現
- 新卒中心チームでのDX推進
- コード品質の向上