株式会社フーディソン

鮮魚流通のDXで生鮮流通に新しい循環を。
複雑な水産ドメインとハードウェア制御を支えるRubyの柔軟性と生産性

株式会社フーディソンは、「生鮮流通に新しい循環を」をビジョンに掲げ、飲食店向け生鮮品仕入れECサービス『魚ポチ』を展開するIT企業だ。

創業以来、電話やFAXを中心としたアナログな商習慣が残る水産流通業界にテクノロジーを注入し、現在では月間アクティブ約5,000店舗、年商63億円規模へと成長を遂げている。

同社は2014年のサービス立ち上げ初期から一貫して開発言語にRuby / Ruby on Railsを採用し続け、2025年にはその長年の継続的なシステム成長と技術的取り組みが評価され、「Ruby biz Grand prix 2025」特別賞を受賞した。

多段階流通や価格の日常変動、個体差といった水産物特有の複雑なドメインに、なぜRubyが有効だったのか。
また、Webアプリケーションにとどまらない多様な領域でどのようにRubyが活用されているのか。

同社テックリードの渡邊氏に話を伺った。

〈 渡邊 大輔(わたなべ だいすけ) 〉
株式会社フーディソン テックリード
社会的意義の高い事業に携わりたくて、2016年に株式会社フーディソンに入社。紙・FAX・電話が主流だった生鮮流通の世界に飛び込み、築地市場から豊洲市場への移転に伴う社内プロジェクトや新物流センター移行プロジェクトなどを主導。現在はテックリードとして、生鮮流通の複雑かつ広大な業務ドメインと時間的物理的な制約に正面から向き合っている。

サンマ漁師との出会いから始まった『魚ポチ』の原点と業界課題

株式会社フーディソンの創業者であり現社長の山本氏が創業前に東北地方を訪れた際、サンマ漁師から聞いた言葉が事業の原点となっている。

消費者が支払う価格に対して漁師の取り分が極めて少なく、「船の燃料代にもならず、息子に後を継がせることもできない」という厳しい現実を目の当たりにした。

同社でテックリードを務める渡邊氏は、事業背景について次のように語る。

渡邊氏「魚を獲ってから食べるまでの間に、産地の市場や消費地の市場など多段階の流通が存在し、価格形成もアナログに行われていていびつな形になっていました。その構造自体をテクノロジーで変えられないか、というのが事業のきっかけです。」

当時の水産流通業界は、電話やFAXによるやり取りが中心で情報がデータ化・構造化されにくいという課題があった。

また、飲食店側も毎朝市場へ出向いて2〜3時間を仕入れに費やさねばならず、仕入れ状況によってメニューの変更を余儀なくされるなど、大きな負担を抱えていた。
欲しい魚が確実に手に入らないこうした物理的限界を打破するため、どこからでもWeb経由で発注できるビジネスアイデアをひらめいた。

自社物流とテクノロジーの融合で複雑な鮮魚流通をシステム化する

『魚ポチ』は、中小飲食店をターゲットとし、仕入れ業務をスマートフォンひとつで完了できるサービスだ。
全国50以上の産地や市場から毎日8,000点以上の商品を取り扱い、1尾単位からの注文に対応している。

しかし、一般的なECサイトの仕組みをそのまま水産品に適用することは容易ではなかった。
野菜や肉などの生鮮食品と比べても、海から水揚げしてすぐ流通する鮮魚は固定の商品IDや固定価格を設定することが難しいためだ。

渡邊氏「水産品は海から水揚げされて初めてどんなものが獲れたか分かるので、商品も価格も固定できません。そのため独自に『水産物辞書』というシステム的な辞書を作り、形態素解析エンジンと組み合わせて、日替わりの構造化されていない情報を構造化しています。それを現場での梱包方法や氷の当て方、ECサイト上の注意書き自動表示などに活用しています。」

また、魚の個体差による量り売りの手間に対処するため、同社は自社物流センターへ自動計量機を導入した。
商品情報を含んだQRコードをコンベアに流すことで自動計測し、重量がそのままシステムへ登録される仕組みだ。

水濡れや衝撃に弱い魚を傷つけないようメーカーと調整を重ねて実現したこの仕組みにより、かつてFAXや紙の付箋で行われていた現場オペレーションは標準化され、経験やスキルに依存しない作業体制が確立された。

カオスな黎明期からハードウェア・レガシー連携までを支えたRubyの生産性と柔軟性

『魚ポチ』のシステム開発が始まった2014年当時、1人目のエンジニアはRuby未経験であったが、生産性の高さと人気の観点からRuby on Railsが選定された。
渡邊氏が入社した約10年前も、サービスは試行錯誤の連続であったという。

渡邊氏「私が入社した頃もまだ色々なことを試し、間違えながら進んでいくカオスな状況でした。何が正解か分からないので、とにかく色々作っては試して直すというPDCAサイクルを高速で回す必要があり、そこはRubyを使っていたことでとても助けられました。フレームワークやライブラリが充実しているため、全員が同じ土台に乗って開発を進めることができました。」

新規事業として要件が頻繁に変わる黎明期において、「アイデアをいかに素早く形にし、市場のフィードバックを得て改善できるか」は事業の生死を分ける。
Ruby/Railsがもたらす高い生産性と柔軟性は、まさにこの高速デリバリーを強力に推進した影の立役者だった。

さらに、同社におけるRubyの活用範囲は単なるWebアプリケーションの開発にとどまらない。
物流現場で稼働する大型の自動計量機(PLC:プログラマブルロジックコントローラ)を制御するアプリケーションも、標準のソケットライブラリを用いてRubyで構築されている。

渡邊氏「Webのイメージが強いRubyですが、標準のソケットライブラリを使って機械の制御までできるんだなと当時は驚きました。また、水産業界の他社システムとのFTP連携など、レガシーな部分でもライブラリを使うことで簡単に対応できました。メインシステムはもちろんRailsで作っていますが、周辺の連携部分も同じ言語で書けるため、開発チームとして思考を分けずに低い負荷で開発できたのは非常に心強かったです。」

特定の領域を除き、まずは「Rubyで試してみる」という選択肢をチーム全体で共有できていることが、開発のボトルネックを減らし、低い学習コストと運用負荷の軽減を実現している 。

さらに、複雑なビジネスロジックの実装においてもRubyの表現力が活かされているという。

渡邊氏「水産物辞書や箱サイズの最適化アルゴリズムなど、ドメイン知識が深く関わる計算処理についても、Rubyは業務ドメインをそのままコードに書き写しやすいと感じます。ドメインの概念を素直にコードへ落とし込める親和性の高さは、開発を進める上で大きなメリットでした。」

読みやすいコードが実現するエンジニア育成と柔軟な組織づくり

同社では、Ruby未経験で入社したエンジニアや、開発未経験からスタートしたメンバーも第一線で活躍している。
その背景には、コード自体の読みやすさとキャッチアップのしやすさがある。

渡邊氏「Rubyのコードは直観的に読んで意味が分かりやすいため、他言語の経験者であってもキャッチアップのハードルが低いです。私たちは水産という特殊なドメイン理解が非常に重要になるため、言語の習得でつまづくことなく本質的な業界理解に集中できるのは大きな強みです。」

楽しく書ける言語であるという特性は、チーム全体のモチベーション向上や技術育成にも寄与している。
社内では毎月1回の部内発表会を持ち回りで開催してナレッジを共有しているほか、外部カンファレンスで得た知見の還元、さらにはOSSへのイシュー登録やコミットといった貢献活動も自発的に行われている 。

渡邊氏「採用の観点でも、『Ruby経験年数何年以上』といった高いハードルを設けずに済み、間口を広く募集することができます。多様な背景を持った方を歓迎できることは、エンジニア不足の中で開発組織をスケールさせていく上でも非常に大きなアドバンテージになっています。」

一貫した基盤が生む信頼とAI活用を見据えた今後の展望

創業から10年以上、一度もメイン基盤を変えることなくRuby/Railsと共に歩んできたフーディソン。
過去にシステムの一括刷新が議論された際も、前提は「Ruby/Railsで作り直すこと」であったほど、その信頼は厚い。

取扱産地や商品数、取引店舗数が増加していくフェーズでも、Rubyエンジニアの順調な採用とRails自体の着実な進化によって、同一言語のまま領域を拡大し続けることができた 。

同社は現在、さらなる生鮮流通のアップデートに向けてAI技術のシステム組み込みを進行させている。

渡邊氏「水産の情報はマスターデータが存在せず、正規化・構造化されていない例外が非常に多い領域です。決まりきったシステムだけでは対応が難しい部分だからこそ、AIが人間に近い感覚で判断してシステムへ橋渡しをしていくことで、大きな成果が出ると考えています。自社での活用を進め、人材不足に悩む業界全体に良い流れを作っていきたいです。」

最後に、渡邊氏はこれからRubyを学ぶエンジニアに向けて次のように語った 。

渡邊氏「RubyはWebの言語という印象が強いかもしれませんが、大型自動計量機の制御やアルゴリズムの実装など、思っている以上に届く範囲が広い言語です。Webアプリケーションの外側に持ち出してみるのも面白いのではないでしょうか。水産業界のようなアナログで複雑な領域だからこそ、柔軟で幅の広いRubyという言語はとても頼りになる存在です。」

数々の技術的・業務的ハードルを泥臭くもスマートに越えてきたフーディソン。
その足元を支え続けてきたのは、不確実なビジネス環境にスピードとしなやかさで応えるRubyという言語と、それを活かしきる強い開発文化だった。

日本の生鮮流通に「新しい循環」を作り出す同社の挑戦は、これからもテクノロジーと共に続いていく。

※本事例に記載の内容は取材日時点(2026年7月)のものであり、現在変更されている可能性があります。